いずれはそうなる、と選手の誰もが思っていた「テニスのビデオ判定」が来シーズンから公式戦に正式導入される。 国際テニス連盟(ITF)が決めたもので(10月14日)、ITFの主催するウインブルドン選手権など4大大会の“ライン付近が対象”となる。 プレーの高速化は、アンパイアを悩ませ、ラインズパーソンを苦しめていた。 選手は、不満の表情を浮かべながら抗議するものの、テニスの伝統美の1つはコートマナーだ。執ようにクレームをつけていては、トッププレイヤーの格を、自ら下げることになる。プロには罰金が課せられる。 観客も、このあたりを充分にのみこんでおり、むしろ“機械化”には消極的だった。 際どいサービスの判定にブザーが鳴るようになった時、オールドファンは「テニスも変わった」とため息をついた。 変わったのではなく進んだのだが、あくまで「人の目で」という層も少なくなかったのである。 一方で、微妙なプレーはスピードを伴って「人」では裁ききれず、総てを納得させるには「レンズの目」に頼る以外になくなりもしていた。 テレビ中継では、スーパースローモーションが、ますます鮮明さを増し、多角度からの再生によって、ミクロなスリルを味わせる。 見る側は、その精細をプレーの精密さに置きかえて感嘆する。こうなれば、判定にビデオの導入は避けられなくなる。 アメリカのプロフットボール(NFL)では、試合中それぞれのチームが2回づつ判定に異議を申し立てることができ、審判団はビデオでそれをチェックする。 その上で、判定どおりならば、抗議したチームから1回分のタイムアウトの権利が取り上げられてしまう(このスポーツでタイムアウトは極めて重要な戦術だ)。 いかにもテレビ時代らしい、アメリカらしいルールだが、ラグビーも、トライシーンに「ビデオ判定」を採用しはじめている。 茶の間と同じレベルの情報を提供しなければ、スポーツが成り立たなくなった、とも言えそうだ。 大相撲が、判定にビデオ映像を初めて参考にしたのは1969年夏場所、36年前である。内外あらゆるスポーツの先陣を切った決断で、テレビの機能をいち早く活かした、と舌をまくが、いまだに、会場(国技館など)には、大型スクリーンを設けない。「ナマ観戦」のよさも大事にして、伝統の雰囲気を守っている。 テニスも、場内放映だけは無いほうが、と願うのだが・・・。 |