スポーツデザイン研究所
topページへ
topページへ
講演情報へ
オリジナルコラムへ
SPORTS ADVANTAGE
   「批評性」「評論性」「文化性」の視点からスポーツの核心に迫る
最新GALLARY
第11回Vリーグ女子 優勝 NEC・レッドロケッツ
(C)photo kishimoto


第11回Vリーグ女子
NEC・レッドロケッツ×
パイオニア・レッドウイングス
優勝 NEC・レッドロケッツ

SPORTS IMPACT
  オリジナルGALLERY
(C)photo kishimoto
vol.243-1(2005年 3月23日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部

金メダリストの生き方


杉山 茂/スポーツプロデューサー
  〜ひしめき合う各日本リーグプレーオフ〜
岡崎 満義/ジャーナリスト
 〜女子マラソンを見ると元気が出る〜 
筆者プロフィール
バックナンバーリスト
SPORTS ADVANTAGE
無料購読お申し込み
オリジナルコラムを中心に当サイトの更新情報、スポーツ関連講座やシンポジウム開催情報などを無料配信しています。今すぐご登録下さい。
申し込みはこちらから
ホームよりエントリー
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望
エントリーは下記リンクより、氏名配信先アドレス男女都道府県別年齢所属を記入の上メールして下さい
金メダリストの生き方
滝口 隆司/毎日新聞運動部)

 文部科学省や日本オリンピック委員会が主催した「スポーツコーチサミット」で、アテネ五輪女子マラソンの覇者、野口みずき(グローバリー)を指導する藤田信之監督が「世界で勝つために〜野口みずき選手のトレーニング〜」というテーマで講演した。藤田監督は、五輪の頂点に立つまでの長い道のりを披露しながら、最後に興味深い話をした。それは金メダリストとしての生き方だった。
 
 「高橋尚子君はシドニーで金メダルをとった後、プロ宣言をして、それまでとは違う生き方を選んだわけです。ただ、私は野口にそういうことをさせる気はない。プロになるのなら、私のところから出ていってほしい、と言っていましたから。アテネまで来たのと同じ道で北京までと、私も本人も考えている」
 決して高橋の選んだ道を非難するような口調ではなかった。むしろ、金メダリストとしていろんな道があってもいいのではないか、というニュアンスが強かったようにも聞こえた。
 
 そういえば、五輪後、野口は講演会やCMにほとんど登場していない。JOCが始めた新肖像権ビジネス「シンボルアスリート」の候補にも挙がったが、「競技者としての活動に集中したい」と辞退している。金メダリストとしての名声や商業価値は、それ以前とは比べ物にならないほど大きいはずだ。それでも商業的な世界に足を踏み入れないのは、純粋に走ることに専念したい、という思いからだろう。
 
 藤田監督はかつてワコールの監督だったが、会社との方針の違いもあって退社した経験がある。その時、ワコールに所属していた野口も藤田監督を慕って会社をやめた。以来、4カ月間は全く所属のない時期が続いた。そこで声をかけてきたのが、グローバリーという名古屋に本社を置く商品先物取引の会社だ。
 
 「失業中に原点に戻れたんです。いったん会社を飛び出してそれが分かった。あのころ、一番集中して練習に取り組めた。そしてまた恵まれた環境の会社に入れてもらった。だから、がんばらにゃあいかんと。そういうハングリーな気持ちになれたんです」と藤田監督は続けた。
 
 高橋のように、自分の商業価値をシビアにとらえ、自らの競技環境を自分の手で切り拓こうというのも一つの生き方だ。野口のように、周囲の雑音を排し、所属企業に感謝しながら競技を追求し続けるのもトップアスリートの生き方だろう。
 
 どちらも尊重されていい。カネをもうけるか否か、プロかアマかを論じる時代でもない。野口もある意味では「プロ」の精神を持ち得た競技者といえるかも知れない。金メダルを手にした2人のマラソンランナーの生き方は、それぞれに日本スポーツの今を映し出している。


Copyright (C) Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。 →ご利用条件