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第7回ワールドゲームズ2005 デュイスブルク大会 スピードスケーティング
(C)photo kishimoto


第7回
ワールドゲームズ2005
デュイスブルク大会
スピードスケーティング

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  オリジナルGALLERY
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vol.260-1(2005年 7月20日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部

“変なヤツ”が日本にほしい


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“変なヤツ”が日本にほしい
滝口 隆司/毎日新聞運動部)

 スイスから飛び込んできたニュースを見て「ついにやったか」という気になった。スイス・ルツェルンで開かれたボートのワールドカップ(W杯)男子軽量級シングルスカルで、日本人初の優勝を遂げた31歳、武田大作のことである。

 武田を初めて取材したのは2年前になる。戸田漕艇場で行われた全日本選手権。大会プログラムを見て奇妙なことに気がついた。監督やコーチ、マネジャーの名前がすべて「武田」姓なのだ。レースが終わり、直接武田に聞いてみると、「これは子どもの名前なんですよ」という。監督に長女の皐月ちゃん(2)、コーチに長男大吾君(5)、マネジャーに二男大地君(4)をエントリーしていたのだ(年齢は当時)。「妻(素子さん)は総監督ですね」と笑ったが、結局、彼はだれの指導も受けず、たった1人でトレーニングを積んでいた。

 練習環境にはもっと驚かされた。愛媛県伊予市出身。愛媛大学の大学院農学研究科を修了した武田は、今も松山市に本社を置くダイキという企業のサポートを受け、トレーニングに取り組んでいる。練習場所は、松山市にある梅津寺海岸の沖合いだった。

 ボートの選手は波のない、流れをせき止めた水路で練習するのが常識だ。しかし、武田は海が本拠地。そんなトレーニングをする選手は世界的にみても珍しいという。

 武田は言った。「波や風があって漁船やフェリーが横を通るんです。波のうねりの中でボートを漕いでいると、サーフィンみたいな感じですよ」。こうした環境で絶妙のバランス感覚を磨いたのである。

 自分の子どもを監督やコーチにエントリーしているのも、単に名前だけではなく、意味があるという。日常の子どもの動作から自然な体の動かし方を読み取り、それを自分の漕ぎに反映しているのだ。

 そんな話を聞きながら、「面白い選手だな」と感じたことを思い出す。言葉悪く言えば、「変なヤツ」という印象だった。

 昨夏のアテネ五輪では前回シドニー五輪に続き、軽量級ダブルスカルで6位入賞。そして、今年はW杯イートン大会(英国)での銀メダル、今回のルツェルン大会優勝と快挙を続けている。

 決して日本人に向いている競技とはいえないだろう。こんな場合、多くのアスリートは世界トップクラスの選手の練習方法を研究し、模倣し、外国勢のカベに挑もうとする。しかし、武田は違う。世界でだれもやっていない練習を繰り返し、たった1人で考え、悩みながら世界の頂点に立ったのだ。体操やバレーボールで日本が新技を連発していた時代にも、こんな独創的なアスリートやコーチが数多くいたのだろう。日本のスポーツ界に“変なヤツ”がもっといたら、と思わずにはいられない。


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