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第56回男子・第17回女子全国高等学校駅伝競走大会 仙台育英高校・渡辺光
(C)photo kishimoto


第56回男子・第17回女子
全国高等学校駅伝競走大会
仙台育英高校・渡辺光

SPORTS IMPACT
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(C)photo kishimoto
vol.283-1(2005年12月28日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者

迷路から抜け出せない企業スポーツ


杉山 茂/スポーツプロデューサー
  〜「今どきの男子」突き放す女子の勢い〜
  −2005年を振り返るC−
岡崎 満義/ジャーナリスト
  〜おみごと! 福原愛選手の中国語〜
谷口 源太郎/スポーツジャーナリスト
  〜大学スポーツの荒廃〜
葉山 洋/マーケティング・コンサルタント
  〜2005年スポーツマーケティング10大ニュース〜
大坪 正則/帝京大学経済学部教授
  〜東京ヤクルトスワローズ〜
市川 一夫/スポーツライター
  〜グランドの芝生化促進が進まない理由〜
   −何が阻害しているか?−

成田 重行/東北福祉大学特任教授
  〜明るい元気なニッポンづくり〜
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迷路から抜け出せない企業スポーツ
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者)

 団体スポーツの8競技9リーグが参加する「日本トップリーグ連携機構」の初のセミナーが、東京・国立スポーツ科学センターで開かれた。各競技のリーグ戦をどう発展させていくか、という問題意識を持って今年5月に発足した連携組織だが、セミナーの講演を聞けば聞くほど混乱させられた。最大の課題である企業スポーツの方向性に何ら指針が示されなかったからだ。

 同機構の森喜朗会長がまずはあいさつに立った。「各競技のトップリーグが目指すのはセミプロ化だ」と森会長は話しながら、その一方では「ラグビーの世界では学生と社会人の差がつきすぎている。社会人はある意味でセミプロ化している」とも言う。企業スポーツが社員の福利厚生から広告宣伝へと役割を変え、競技に専念する「セミプロ」となったのは今に始まった話ではない。

 次はトヨタ自動車副会長でもある張富士夫副会長が「企業CSR(社会的責任)とスポーツ」と題して講演。「運動部がセミプロ化、プロ化し、社員がスポーツに専念することで職場との絆が薄れてしまった」という認識を示した張副会長はこんな意見も披露した。

 「企業は経営者のものではなく、株主のものといわれる時代になった。株主は企業に短期的利益を求める。だから、スポーツはリストラの対象になりやすい。しかし、これからは長期的視野に立った社会貢献活動に対し、株主に理解を求めなければならない」。財界人らしい見方だが、記者会見では「長期的視野といっても、それはトヨタだから言えるのではないか」と辛らつな質問も飛んだ。

 バブル時代、「メセナ(救世主)」という言葉のもとに企業はスポーツや文化事業に乗り出したが、景気低迷とともに一斉に社会貢献活動から手を引いた。その事実をスポーツ関係者は忘れてはいない。

 その次は同じく機構の副会長である日本サッカー協会の川淵三郎会長。「地域密着型プロスポーツの将来」をテーマにした講演は、Jリーグ発足時の話が中心となった。

 川淵氏は欧州のプロ選手とかつての日本選手の練習態度を比較した。日本選手が監督に怒鳴られ、尻を叩かれて練習しているの対し、欧州はコーチが「ピッ」と笛を吹くだけ。欧州の選手は自らが必死に練習しないとプロの世界で生き残っていけないことを理解しているのだという。それを例に「企業が選手にいい条件を用意している状況では、選手に自立の意識は育たず、トップリーグも発展しない。選手、クラブの自立こそが一番大事だ」と強調した。企業に依存するアマチュアスポーツは「生ぬるい」というニュアンスを込めた刺激的な言葉だろう。

 とはいえ、サッカーのように全ての競技がプロ化に踏み切れないことは誰もが分かっている。クラブが独立を目指し、企業スポーツから脱しても、マイナー競技ではスポンサーシップの見込みも少なく、組織の基盤も脆弱だ。そうであれば、企業に社会貢献の意識が芽生え、再び企業スポーツが復活する時代を待つのか。しかし、それも長期的に続くとは限らない。今年も「迷路」から抜け出す答えは見つからず、またまた疑問は増すばかりである。


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