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vol.321-1(2006年10月 4日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
ジュニア・ゴルファーへの警鐘

 9月26日、アメリカの伝説的なゴルファー、バイロン・ネルソンが亡くなった。94歳の高齢だった。

 「通算52勝は歴代6位とはいえ、1945年の11連勝を含むシーズン18勝は今もツアー記録として輝く。しかし、彼の存在の大きさは、破天荒な数字だけでは語り切れない。『世には2種類のゴルファーがいる。生活のために収入を得る者と、楽しみのために支出する者だ。だからアマチュアがプロのまねをするのは理に反する』。技術にはどこまでもシビアだったが、その一方でフェアな精神に満ちていた。・・・だれが最強かという議論に決着はつかないが、だれが最も紳士的なゴルファーかを答えるのは簡単だった。米国ゴルフの重しのような人だった」と、西山良太郎さんは書いている。(10月2日付朝日新聞夕刊「窓・論説委員室から」)

 ゴルフというスポーツは、とりわけフェアで正直、公明正大な精神が不可欠だ。あるがままのボールを打ち進めていく、という単純なものだが、いや単純だからこそ、いかなる場合でもごまかさないことが強く求められている。紳士のスポーツと呼ばれ、ルール、マナーに厳正であれ、といわれる。ズル賢い、といったことがほめられるサッカーなどとちがって、とことん性善説のスポーツである。

 そんなゴルフというスポーツの根幹を揺るがすような“事件”が起こった。男子プロゴルフの中西雅樹選手(22)が、8月28日の日本オープン最終予選第1ラウンドで、3ホール分のスコアを改ざんして過少申告をしたのだ。

 ホールアウト後、同伴競技者がつけていた自分のスコアカードを3ホール分、消しゴムで消し、書き直して提出。直後に同伴競技者の指摘で発覚、失格となった。

 これに対して、日本ゴルフツアー機構(JGTO)は理事会で「出場停止5年、制裁金200万円」の処分を決めた。除名の声もあがったが、初犯であること(再犯などという事態を考えるのは、ほとんどありえないことなのだが)、年も若いことなどを考慮して、上記の処分となった。

 新進気鋭のプロゴルファーが、こともあろうに3ホールもスコアを改ざんするとは!
信じられない気持ちだった。事情聴取では、当日極度の体調不良だった、と述べていたが、それなら棄権すればよい。スコア改ざんは、どんな理由をつけようと許されない。勘違いによる誤記はたまにあるようだが、今回の場合は確信犯的な改ざんであって、単なる過少申告による失格とはワケがちがう。

 このような“事件”が起こる背景は何だろうか。最近、ジュニアのゴルファーたちの中に、スコアのごまかしが増えているのだという。プロゴルファーを目指す少年たちに、親が尻を叩く。スコアが悪いとひどく叱られる。行き過ぎた親がある。父はコースの右側を、母はコースの左側を歩く。息子のショットしたボールが左右に大きく曲がったりすると、こっそり拾い上げて打ちやすいところに何知らぬ顔で置いたりする例もあったそうだ。ジュニアのごまかしは年々ひどくなっている、と嘆くプロゴルファーがいる。親の期待が強すぎると、とんだ心得違いの親子が出現することになる。今回のきびしい処分は、若いプロゴルファー予備軍への警鐘でもある。

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