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vol.333-2(2006年12月27日発行)
大坪正則 /帝京大学経済学部教授

加速する日本人選手のMLB流出
〜今年のスポーツを振り返る@〜

 西武ライオンズの松坂選手と阪神タイガースの井川選手に対する、MLB球団のポスティング入札額には、日米双方の関係者が驚いた。ボストン・レッドソックスが松坂に約60億円、ニューヨーク・ヤンキースが井川に約30億円の値を付けたからだが、本人たちも想定外だったようだ。なにしろ、松坂の60億円は西武の年間収入(補填を収入と見なさない場合)に匹敵し、年間選手年俸総額約20億円の3年間分に相当する。井川の30億円は阪神の年間年俸総額のまるまる1年間分にあたる。

 日本のプロ野球関係者は、MLB球団が出してきた金額に日米の格差を実感したが、それは同時に、力のある選手にはインセンティブとなり、貧乏球団には新たなビジネスチャンスと受けとめられたに違いない。一方、多くの日本人は、なぜ、MLB球団がかかる大金を払えるのか疑問に思ったことだろう。日本のプロ野球が大きく変わるきっかけになった気がする。

 MLBを含むアメリカのプロスポーツリーグは、得た収入を経営者側約40%、選手側約60%で分け合っており、第3者(たとえば、国際野球連盟や国際バスケットボール連盟)に収入の一部を吸い取られたり、または、上納するようなことはない。

 MLBの場合、2006年の総収入は52億ドル(約6,000億円)と予想されている。MLBの選手は1,200人(30球団x登録選手40人)だから、選手平均年俸は【6,000億円x60%÷1,200人=3億円】と算出できる。実際にMLB選手会は2006年の平均年俸を約270万ドル(約3億2,000万円)と公表している。

 一方、日本のプロ野球選手の平均年俸は約3,750万円。MLBの8分の1にすぎない。これでは、実力のある選手が8倍の年俸に魅力を感じないわけがない。力があればあるほど、MLBで力を試してみたい気持ちと相まって、MLBへの思いが募り、来年以降、松坂や井川に続く選手が続々と出てくると予想される。

 また、MLB側も、来年以降も、松坂や井川に投じたような大金を日本人選手に投資できる環境にあるので、日本人選手のMLB流出を阻止する有効な手段を見出すことはできない。

 アメリカの労働政策は、私企業の労働条件を団体労働協約で取り決めることを促しているが、MLBも例外ではなく、1968年以来、労使は団体労働協約を取り結んでいる。ところが、MLB選手会はアメリカ史上最強の労働組合の1つと言われており、協約の改訂毎に、ストライキ(労働者の職場放棄)またはロックアウト(経営者の職場閉鎖)を行ってきた歴史を持っている。

 MLB最後のストライキは1994年。ワールドシリーズが中止になり、MLBの人気と信頼は地に落ちた。しかしながら、1995年から2006年の間、MLBは年率10%の収入増を達成している。直近の2001年(35.5億ドル)から2006年(52.0億ドル)の間も1.46倍の収入増だった。かかる環境では、「金持ち喧嘩せず」の気運が高まるのは当然。MLBの労使は2006年12月19日に契約終了の期日を迎える2002−06年団体労働協約の改訂交渉を、何と2ヶ月早く、10月23日に妥結したのだ。新しい協約の契約期間は5年。その間はストライキもロックアウトも起らないことが確定した。

 労使関係が安定し、収入が10%の伸びを示している時に、球団経営者が積極的経営姿勢を打ち出すのは自然の流れと言える。現在、ヤンキースの収入は350億円を超え、レッドソックスも270億円程度を稼いでいる。将来の収入の伸びを勘案すれば、ヤンキースとレッドソックスが投じた30億円と60億円はいとも簡単に回収してしまうと予想される。

 それにしても、MLBの球団当り平均収入が200億円(6,000億円÷30球団)に対し、日本のプロ野球のそれは約90億円(1,100億円÷12球団)。

 収入はMLB球団平均の2分の1なのに、年俸はMLB選手の8分の1である。このアンバランスが選手流出を加速させている一因でもある。

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