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平成17年度全日本卓球選手権大会 混合ダブルス準優勝 坂本竜介・福原愛
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vol.284-2(2006年 1月13日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者

少年野球と中学生の死



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少年野球と中学生の死
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者)

 年明けからスポーツメディアはトリノ五輪、ワールド・ベースボール・クラシック、サッカー・ワールドカップの3大メガイベントに話題を集中させている。だが、そんなニュースの陰で、どうしても取り上げておきたい話がある。少年野球で起きた「事件」だ。

 ボーイズリーグ「京都田辺硬式野球部」に所属していた中学2年生、奥瀬翔人君(13歳)が練習中に倒れ、翌日に死亡したのは昨年の10月だった。その両親が悩みに悩んだ末、昨年暮れに当時の総監督(63歳)を業務上過失致死容疑で告訴したという。

 今回のニュースが伝わる直前、大阪で少年野球の関係者と会う機会があった。その際、あるボーイズリーグの監督から「昔みたいな猛烈な指導はできないんだよ。京都田辺なんて解散だからな」と聞かされていた。奥瀬君の死去後、日本少年野球連盟は京都田辺に対し、チームの解散命令と総監督の除名処分を下していたのだ。

 その練習内容は信じがたいものだった。朝から2試合を行った後、負けた「ペナルティー」として科せられた練習は以下の通りだ。投球練習1時間、20b走100本、30b走100本、坂道ダッシュ300本。奥瀬君が倒れたのは、坂道ダッシュ200本を終えたころだったという。死因は熱中症による多臓器不全とみられているが、この練習を始めたのは日暮れの午後5時半からで、倒れた時、時計は午後8時半ごろを指していた。そんな異様な状況を並べると、やはり「事故」ではなく「事件」と言わざるを得ない。

 熱中症の知識不足という問題だけでは決してない。こうした指導者には「選手を育てる」という意識よりも、「選手を鍛えてやる」という考えが強いのだろう。そして、勝利至上主義的な精神論が今も消えてなくならない現実の背景には、現代なりの理由があるようにも思える。

 ボーイズリーグやシニアリーグのことを調べてみると、多くのチームがホームページ上で自チームの成績とともにOBの進学先や甲子園出場歴を公開している。あからさまに監督が名門校にパイプを持っていることを強調しているチームもある。まるで進学塾が合格者数を発表するかのようだ。甲子園予備軍という位置付けなのかも知れない。

 つまり、中学時代の野球の実績が即、高校進学に結びつく。それが指導者の手柄にもなり、選手も集まる。アピールできる「実績」とは「勝つ」こと以外にはない。高校側も最近ではあらゆる推薦制度を作り、スポーツでは「全国大会●位以上」などと掲げる学校もある。少子化時代のそうした風潮が、勝利至上主義を助長するのだろう。

 亡くなった奥瀬君はエースで4番。身長185a、体重88`の体格だったそうだ。テレビに映るプレー姿は、今すぐにでも甲子園で通用しそうな将来性を感じさせた。そんな大物中学生が死ぬほどの練習とはどんなものなのか。文字通り、背筋が凍る思いがした。


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