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vol.296-2(2006年 4月 7日発行)
滝口 隆司
毎日新聞大阪本社運動部記者

センバツ3チームに見る地方の強化



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センバツ3チームに見る地方の強化
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者)

 今年の選抜高校野球は強豪・横浜の3度目の優勝で幕を閉じた。大会を振り返れば、私には印象に残る3つのチームがある。準優勝した清峰(長崎)、4強の岐阜城北(岐阜)、2回戦敗退ながら日本最南端の高校として話題を呼んだ八重山商工(沖縄)だ。その共通項を探ると、一つの新しい流れが見えてくるような気がする。

 3校とも最後は横浜に敗れた初出場校である。興味深いのは、いずれも県立校であり、地元の選手のみでチームを編成している点にある。特に清峰と岐阜城北の選手たちはほとんどが中学校野球部出身の軟式上がりだ。

 最近、地方から台頭してくる高校はといえば、シニアやボーイズリーグなどの硬式野球経験者を県外から集めて強化を図った私学が多い。しかし、今回はそんな風潮とは全く異なる県立校が勝ち進んだのだから、「なぜ?」という疑問は沸いてくる。

 決勝戦前の共同インタビューでこの疑問を清峰の4番・木原にぶつけてみた。彼はこう答えた。

 「中学の頃からみんな知り合いで、一緒に清峰に行って野球をしようということになった。それが今のチームワークの良さにつながっていると思う」

 全員が同じ中学校というわけではないが、選手の出身中学を見ると、長崎県北部が中心になっていることが分かる。つまり、中学時代から常に対戦し、顔見知りだった「仲間」たちが高校で結束したというわけだ。指導者の役割も大きい。37歳の吉田洸二監督は佐世保商―山梨学院大出身と、決して華やかな球歴を持つわけではない。だが、個性重視の指導理念の下、トレーニング理論や戦術に研究熱心な清水央彦コーチ(35)と二人三脚で選手を育てあげてきた。かつて10人しかいなかった部員は次第に増え始め、チームは県内有数の強豪に成長。04年のセンバツでは21世紀候補校となり、昨夏甲子園初出場。今回はその時のメンバーが軸になっている。

 岐阜城北のケースは「システム的」だ。スポーツ王国を目指す岐阜県の強化プロジェクトの中に、高校野球が位置付けられたのは03年。地元の中学硬式野球経験者は、愛知県の愛工大名電や東邦といった私学に流れていく。そこでもう一度地元で選手を育てようと県が力を入れ始め、県内有力校に施設利用で優遇策をとったり、県スポーツ科学トレーニングセンターで科学的な筋力トレや投球フォームの動作解析も行ってきた。岐阜城北は指定校の一つだ。県内の優秀な中学生を集めて高校の指導者の指導を受ける「スーパージュニアスクール」という制度もあり、エースの尾藤や主将の太田はこのスクール1期生でもある。

 八重山商工は、伊志嶺吉盛監督(52)が03年春に就任する以前に指導していた少年野球の選手たちが小学校からそのまま高校まで上がってきた。伊志嶺監督は94年に「八島マリンズ」という小学生の軟式チームを作って全国優勝。98年には中学硬式野球の「八重山ポニーズ」を創設し、02年には世界で3位になった。その時のメンバー11人が現在の中心選手となっている。

 これらの例を見れば、いずれも中学校、もしくは小学校時代からの「つながり」がある。いわゆる一貫教育とは少し異なるが、その強化の根底に流れるものは同じだろう。高校の3年間だけでなく、長期的な視野を持てば地方でも全国の舞台で通用する選手やチームを育てられる。そんな意識を目覚めさせる3校の活躍でもあった。


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