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vol.302-3(2006年 5月26日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者

広げたい「ゆうボール」の輪


 今月11日から「ゆうボール」という特殊なボールが発売されている。日本プロ野球選手会と内外ゴムが共同開発したもので、キャッチボール専用球というふれこみだ。

 「ゆうボール」のネーミングがいい。「ゆう」とは、「遊(あそぶ)」「友(ともだち)」「YOU(あなたと)」の3つからとっているという。

 特徴はまず軟らかく安全なこと。さらに硬式球のような縫い目がある。軟式のC球(小学生用)よりやや大きく、少し軽い。合成皮革で包まれた表面の下はゴムスポンジになっていて、当たっても痛くなく、グラブでも素手でも楽しめる。縫い目があるので、正しい握りを覚えることもできるというわけだ。

 このようなボールが発売された社会的背景をやはり考えてみなければならない。プロ野球選手会が発売にあたって出したコメントは以下のようなものだ。

 「たった一人の相手がいればはじめられる野球の原点、コミュニケーションの原点であるキャッチボール。それがなぜできなくなっているのかという選手たちの危機感から、このボールは生まれました」

 なぜキャッチボールができなくなったのか。選手会では今年から「キャッチボールプロジェクト」という活動を始めているそうだ。だが、そんな問題意識を持っているのは選手会だけではない。

 社団法人・日本公園緑地協会でも同様に「キャッチボールの出来る公園づくり推進会」という組織を発足させ、ここ3年間、議論を続けてきた。日本野球機構もこの動きに資金的支援をしている。

 同協会が政令市と東京23区を対象に調べたところ、52%の公園でキャッチボールが全面禁止という結果が出た。日時・場所によって禁止という回答も8%あり、全体の6割でキャッチボールができないという実態が浮かび上がってきたのだ。最も多かった禁止の理由は「公園利用者の安全確保」だった。

 私の知る範囲でも笑えない話がある。近所の小学生が公園で野球をしていて打ったボールが隣りのマンションに飛び込み、ガラスを割ってしまった。ここまでは私の時代でもよくあった話だ。ところが、彼がガラスを割った数日後、信じられないことに、何もなかった公園には至るところに木が植えられ、いっさい野球はできないようにされてしまった。それが大人たちのやることなのだ。

 今、子どもたちが「遊び」として思う存分野球をできる場はきわめて少ない。どこかのチームに所属し、バックネットがあるようなグラウンドか野球場を探さなければ、野球はできなくなってしまった。そして、野球どころか1対1のキャッチボールさえ、禁止される時代である。もっといえば、子どもを標的にした犯罪の急増で、外遊び自体が危険視されるようになってきた。

 「ゆうボール」ですべてを変えられるわけではもちろん、ない。だが、キャッチボールの良さを知る大人たちが、その環境づくりに力を入れるのには大きな意味がある。キャッチボールの文化伝承。それは次世代への責務のようにも思える。

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  松原 明/東京中日スポーツ報道部
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