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vol.334-1(2007年1月9日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
井村雅代コーチの中国行に拍手!

 昨年末、とびこんできたニュースで、胸がすく思いがしたニュースは2つ。有馬記念でまさに天を飛んで圧勝したディープインパクト。そして、シンクロナイズド・スイミングの日本代表ヘッドコーチだった井村雅代さんが、中国代表チームのヘッドコーチに就任するというニュースだ。

 スポーツのグローバル化はここ数年、飛躍的に拡大している。日本から世界の舞台を求めて、優秀な選手がどんどん飛び立っている。柔道やバレーボールなどでは、コーチも海外へ出かけていくことがふえてきた。プロ野球など、日本の至宝ともいうべきイチロー、松井、松坂・・・などの流出がつづき、日本のプロ野球は大リーグのファームになるのか、といった疑問も湧いてくるが、それは別の問題で、一流選手が世界一の舞台を求めていくのは、止めようのない、自然の流れだろう。野球、サッカー、相撲にとどまらず、あらゆるスポーツで外国からも選手、コーチが日本にやって来る、同様に日本から外国への流れも出てくる、というのが、これからのプロスポーツの姿だろう。

 それにしても、井村コーチが“優勝請負人”として、中国代表チームのヘッドコーチに就任するとは、心地よい驚きがあった。快挙だと思う。

 カタールのアジア大会で、日本のシンクロナイズド・チームは中国に敗れて銀メダルに甘んじた時だけに、このニュースは関係者には衝撃的であったようだ。1984年から2004年までの間、オリンピックや世界選手権で16個のメダルをとった日本代表を指導してきたコーチだけに、そのコーチが中国へ行ってしまうと、日本のメダルが危うくなる、と心配する人がいてもおかしくない。ご当人も悩んだにちがいない。

 中国チームのヘッドコーチに決まったときの記者会見で、井村さんは「中国の素材(選手の素質)は怖い。しかし、まだ点の取り方を知らない。金メダルをとるノウハウがない」「ロシアのコーチは世界中に出ている。日本はいない。日本のコーチが世界へ出ていくことで、日本流のシンクロもいいものだ、と認識をあらたにしてくれるはずだ」と語っていた。その言やよし、である。

 このニュースを聞いたとき、すぐ思い出したのは、"東洋の魔女"を率いて東京五輪で優勝した女子バレーボールの大松博文監督のことだ。大松さんは周恩来首相に口説かれて、中国女子バレーボールのコーチをした。大松コーチのもとで中国女子チームはめきめき強くなり、やがて、日本チームが勝てなくなってしまった。それはすばらしいことだった。スポーツの技術に国境なし、である。

 明治時代、たくさんの“お雇い外国人”が日本にやって来て、日本の近代化に力をつくし、さまざまな文化のタネを残していってくれた。イギリス民謡など、今も歌い継がれている。マン-ツウ-マンの指導を基本とするスポーツは、より人間的な側面が重要であり、影響力も大きいはずである。

 井村コーチのもとには、アテネ五輪後、4ヵ国からコーチの依頼があったという。その中から、何かにつけて反日感情に火がつきやすい中国を選んだ心意気がすばらしい。中国と日本は一衣帯水、同文同種だ、とよくいわれるが、民族的な心性は似て非なるものだ。日中国交回復の時、日本は「小異を捨てて大同につく」のに対し、中国は「小異を残して大同につく」といわれた。「捨てる」にはミソギ的な潔癖さ、「残す」にはふところの深さ、のようなものが感じられる。この違いは大きい。そういう日本人にとってむずかしい国へ行こう、という井村コーチの勇気に、大きな拍手を送りたい。中国チームを徹底的に鍛え上げることによって、日中友好の一つの形を見せてもらいたい。

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