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vol.335-1(2007年1月15日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
横峯さくら選手の芯の強さ

 1月3日夜、NHK・BSで青山裕子アナウンサー、武田鉄矢と女子プロゴルファー横峯さくら選手の新春スペシャル対談を見た。

 その中で横峯が昨年春、つまりシーズン中に、コンビニでレジのアルバイトをした、と言ったのには驚いた。

 「お父さんに、アルバイトするより練習しなさい、と叱られなかった?」

 「父には話さなかった。母に言ったら、ああそうなの、と何も言われなかった」

 「誰かの紹介で?」

 「ちゃんと面接を受けて。週に月曜日だけという条件をつけたからダメかと思ったけど、受かっちゃった」

 「何でそんな気になったの?」

 「私たちゴルファーは、予選を通過すれば、最低20〜30万円入るんです。優勝すれば、1000万円を超す賞金だって入ってくる。お金の価値、ありがたみを忘れそうになるので、ふつうに働いてお金を稼いでみるのもいいのではないか、と思った」

 「時給でしょ?」

 「そう、時給650円位だったかな」

 「そのアルバイトで何がよかった?」

 「いろんな人に触れたこと。上司の社員の方がキチンと指導してくれたし、いろんなお客さんと触れて、話もできたし」

 そんな会話をあっけらかんと続ける横峯選手を、面白い、と思った。猛烈ゴルフ教育パパの長年にわたる特訓で純粋培養された彼女が、フツーの生活人の仕事感覚を体験してみよう、と思ったところが何とも言えず面白い。

 「お客さんがゴルフの横峯、と気づかなかった?」

 「1回、レジを終って帰りかけたお客さんが、また戻ってきて、横峯さんですか、と訊いたので、よく似ているって、言われるんです、と言ったんだけど、胸に名札をつけていたから、ばれてしまった」

 同じように猛烈な教育パパに育てられた宮里藍選手は、しっかり者の超優等生、どんなときでも心の乱れを表情に現さない自己管理の、若くして達人、という印象だが、横峯選手には、ときどきドジをふむ危うさをもつお転婆娘、という印象が強かった。あの教育パパがそばからいなくなったら、糸の切れた凧のようにどこかへ飛んでいってしまいそうなあぶなっかしさを感じていたが、今回の対談を聞いて、印象が変わった。意外に日常生活の平衡感覚がしっかりしていて、無意識のうちに精神的なバランスがとれる強味を持っているように見える。

 天才少女といわれたプロ選手が、いつか燃えつき症候群になって、挫折するケースをいくつも見てきた。(たとえばプロテニスのカプリアティ選手など)早期教育、促成栽培風に育てられた選手ほど、そうなりやすいように思える。ハングリー精神とまではいかなくても、「普通人の生活」感覚を、どこかで身につけていくことが、人生途中で迷走することのないように歯止めになるのではないか。

 宮里藍選手にくらべて、横峯選手にはどこかヤワなもの、危っかしいもの、崩れやすいもの、を感じていたが、今回の対談を見て、彼女は思った以上に芯の強い、心身ともに大崩れしない選手に見えてきた。面接試験をうけてまで、時給650円の労働を経験してみよう、という発想をした横峯選手の今年に、大いに期待してみたい気持になった。念願の賞金女王になれるかもしれない。

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