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vol.336-1(2007年1月23日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
白川静さんのイナバウアー

 昨秋、白川静さんが96歳で亡くなられた。白川さんは漢字学の大家、万葉集、詩経の研究から始まって、甲骨文、金文などの中国古代の文字など研究一筋、漢字に関しては世界的な権威だった。というより、独創的な「白川学」とでもいうべき業績を残した、という方がいいようだ。多くの著書の中には「字統」「字訓」といったすぐれた辞書もある。今西錦司さんの「日本のサル学」と並ぶ、世界に誇りうる独創的な学問といえるかもしれない。

 「月刊百科」(平凡社)'07年1月号で、白川静特集が組まれているが、その中に長女の津崎史さんが「私の中の父」という一文を寄せている。

「仕事をはなれたところで、父は結構多様な趣味をもっていました。若い頃から囲碁、将棋は好きだったようで、テレビの対局をよく見ていました。謡曲は幼いころ長兄が習っていたのを聞いて覚えたそうだ。母が謡曲を始めると二人で連吟をしていました。・・・
 スポーツは相撲をみるのが好き、イチローや松井秀喜の活躍も見逃さず、フィギュアスケートのアラカワシズカは、一字違いの親しさで、早朝深夜もテレビ観戦。散歩の途中で、背中を反らせた『イナバウアー』をするほどでした」

 たしかに、アラカワシズカとシラカワシズカは一字違いだ。100歳に近い老碩学が、荒川静香のテレビは必ず観戦、散歩の途中でイナバウアーの真似をしている姿は、想像するだけで楽しくなる。勉学で疲れた頭を、荒川静香のフィギュアスケートがほぐし、なぐさめていた、と思うと、うれしくなる。これぞスポーツ! という感じだ。(私が現役の編集者だったら、白川静、荒川静香「しずかにお茶を!」対談をしたかった!)

 松坂大輔のポスティングシステム入札料60億円から始まって、サッカーのベッカムがRマドリードから、米MLSのロサンゼルス・ギャラクシーに、5年契約300億円で移籍する、というニュースまで、あまりの巨額マネーの乱舞。そして、ホームランを量産するバリー・ボンズが禁止薬物の興奮剤に陽性反応したと報じられたとき、薬物は同僚のスウィーニー内野手のロッカーにあった、と主張していたのを、取り下げ、謝罪したが、陽性反応については否定しなかった・・・という報道などをみていると、マネーと薬物は、スポーツのつまずきの石だ、と思えてくる。

 そういううっとおしいニュースの中にあって、シラカワシズカさんとアラカワシズカさんの話は、心をなごませるものがある。性別、年齢に関係なく、スポーツをする、みるのどちらでもよし、スポーツを楽しむ心が、ここにある。そんな心がつながる。これがスポーツの原点だ。どんな時代、どんな状況になっても、いつでもそういうスポーツの素朴な姿があることを、忘れたくない。

 ここまで書いて、今朝1月22日付朝日新聞朝刊のスポーツ欄に、トリノで開かれている冬季ユニバーシアードで、鈴木明子選手(東北福祉大)がフィギュアスケートで優勝した、というニュースが出ていた。

 「3年前、摂食障害に陥り、スケートができない日々が続いた。立ち直るひとつの契機が、'04年にテレビで見た世界選手権を制する荒川静香の姿だった。気が付くと、涙が止まらなかった。『わたしも、しーちゃんみたいになりたい』。止まっていた時計の針が再び動きだした。・・・」

 ここにも荒川静香効果がある!

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