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vol.351-1(2007年5月 8日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
山田満知子コーチの凄さ

 最近、山田満知子「素直な心が才能を伸ばす!―だれでも結果は出せる」(青春出版社刊)を読んだ。山田さんは誰もが知っている、日本女子フィギュアスケート界の名伯楽。かつて、世界No.1のジャンプ力を誇った伊藤みどりを育て、近年、浅田真央を世に送り出した名コーチである。

 「伊藤みどりは、ズバ抜けた『ジャンプ力』を持っていましたが、天才肌で気性が激しく、練習もやるときはやるけれども、やらないときは全然やらないという、私たちコーチとしては非常に指導しにくいタイプでした。表現力の点も今ひとつのところでしたが、それゆえ唯一の武器である天才的なジャンプ力で、トリプルアクセルに成功。東洋人として、日本人としての『伊藤みどり』という存在を、どんどん大きくしていきました」

 「(浅田真央は)みどりのような迫力のあるジャンプはできなくても、奇跡的なほどバランスのとれた能力を持ち、何よりも、みどりにはなかったオーラのようなものがあります。・・・かつて私が伊藤みどりに対して抱いたワクワク感とはちょっと質の違うもので、『初めて、本当のフィギュアスケートを見せられる』といった、スケートを愛する者としての心からの喜びです。気品に溢れ、芸術的でありながらパワーのある演技。これまでの日本人には到達できなかった境地に、彼女ほど近い選手はいないだろうと思います」

 山田コーチはこれほどの逸材にめぐりあい、手塩にかけて育てながら、昨年8月、浅田真央を、もっと広い世界を見た方がいい、と、練習拠点をアメリカに移させ、新しいコーチの下に送り出している。これはスゴイことだ。当たり前のことのように見えて、誰にでもできることではない。

 昔、ゴルフの倉本昌弘選手が「日本人選手がなかなか世界の舞台で活躍できないのは、ひとつにはコーチの問題がある。コーチには初心者を教えるのが上手なコーチ、中級者にいいコーチ、上級者向きのコーチと、選手の技術に応じて、コーチの適性はいろいろ違っている。日本では往々にして、1人のコーチが選手を囲い込んではなさない。もっと上級のコーチにあずければもっと進歩する、と思っても、育てたコーチが選手を独占しようとすることがままある」と話すのを聞いたことがある。

 山田コーチはまさに倉本発言―かくありたいコーチ像を地でいったのである。若い素晴らしい才能を、ひとり占めにしない心の大きさがあったのだ。伊藤みどりの場合は家庭の事情があって、自分の家にひきとって生活を共にし、スケートを教えた。一心同体のコーチと選手のスタイルだった。浅田真央の場合は、あるところまできたら、もう何も教えることはない、と、あっさり手放して、アメリカへ送り出した。

 これぞ教育の真髄であろう。誰でもマネできることではない。

 「世界一になる選手には、気が強くて、みんなから嫌われていて、周りを蹴飛ばしてでも突き進んでいく人はいます。でも私は『そういう選手はいらない』と、常々言っています。人生80年、90年。それだけ長い年月を生きるのですから、スケートをしない時間のほうが長いのです。青春時代にスケートを通じてきちんとした人間形成がなされていなければ、後の人生もきちんと生きていくことができないと、私は思います」

 山田さんのコーチ人生は豊かだ。こういうコーチに手とり足とり教えてもらった選手は、何と幸福なことだろう。

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