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vol.372-1(2007年10月4日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
時太山死亡事件を聞いて

 時津風部屋の時太山死亡事件は、これから相撲協会の時津風親方、かかわった兄弟子たちの聞き取り調査、警察の捜査で、その実態が次第に明るみにでてくるはずだ。それを待って、処罰も対策も少しずつ考えられていくだろう。事実が確定していない今、この事件についてあれこれあげつらうことはむずかしい。そこで、問題の背景を大まかに考えてみたい。

 まず、相撲社会は特別に密閉・閉鎖社会であることだ。外部の声は、せいぜいのところ、横綱審議会がある位だ。すべてが力士OBだけで進められる。相撲社会の常識が、一般世間とくい違うことがままあるのも、原因はその閉鎖性にある。もっと外部の風がよく吹き通るような組織をつくっていく必要があろう。協会の運営も部屋の経営も、情報開示をもとにした、もっと透明性のあるものにしていかなくてはならないだろう。

 相撲部屋は近頃珍しい擬似家族制度を維持している。親方は父、おかみさんは母としたって、ハイティーンの少年たちは入門するシステムになっている。部屋付の親方は兄貴かおじさん。スポーツ教室のコーチやインストラクターとは、少し違う。そして、少子・核家族に慣れた少年たちは、兄弟子ばかりの大家族制度に適応するのがなかなかむずかしいだろう。

 26、7年前、初期の「ナンバー」誌で、私は相撲部屋のおかみさん座談会をしたことがある。今でも覚えているのは、大半の少年たちの魚嫌い、つまり魚のチャンコ鍋がむずかしくなってきたこと、ファーストフードが好きで、しっかりした食事をとらない、過保護の子供が多い、という嘆きだった。

 そして、当時はまだケータイのない時代、新弟子が故郷の実家へ電話するのも、おかみさんを通してすることが多い、という話もでた。黒星つづきの若者をどう励ますか、怪我した力士をどうサポートするか、大変です、という悩みも異口同音に出た。

 そこで思うのだが、協会には親方師匠会はあっても、「おかみさん会」はないようだ。ぜひ正式に「おかみさん会」を作ってもらいたいと思う。協会の中の正式機構の一つとして。土俵をはなれた若者たちの生活情報は、親方よりもおかみさんの方により多く集まるはずだ。時太山も暴力兄弟子たちにケータイを取り上げられたとき、おかみさんにケータイを借りて実家へ電話した、と伝えられた。これからも擬似家族方式を維持していこうとするならば、「おかみさん会」がどうしても必要だろう。

 外部の声、そしておかみさんの声の聞けるパイプをきちんと作ることが大切だ。相撲部屋の擬似家庭内暴力を防ぐための、最低限の仕組みだ。

 昔、九州場所の二子山部屋を取材したことがある。今の松ヶ根親方が大関・若島津であった頃だ。初代若乃花の二子山親方が、まだ童顔の残るハイティーンの新弟子と2人で昼ご飯を食べていた。

 「やっとこの子も、いただきます、ご馳走さまが言えるようになったよ。相撲取りは食べることが基本、しっかり食べて、挨拶もちゃんとできる礼儀正しい子、そうならないと強くならないんだ」と二子山親方は言った。

 まさに手とり足とりの生活指導に見えた。若者の生活全体に目を向ける親方やおかみさんがいることが、擬似家族的な部屋経営の根本だろう。

 インターネットやケータイが擬似家族の相撲部屋の基盤を少しずつ削っているような感じがするし、相撲部屋も変わりつつあると思うのだが、そのことによる新しい問題の発生は、もう少し先のことになるだろう。

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