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vol.373-2(2007年10月12日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
マリオン・ジョーンズの薬物使用

 スポーツの大きなつまづきの石は3つ―政治、マネー、薬物だと思っている。2000年のシドニー五輪で3つの金メダルを含む5個のメダルを獲得した、アメリカのマリオン・ジョーンズ選手が薬物使用を認め、メダルはく奪、記録抹消の処分を受けることになった。

 「米陸上女子短距離のマリオン・ジョーンズ(31)が5日、ニューヨーク州ホワイトプレーンズの連邦地裁で、03年に連邦捜査当局に対して薬物使用を否定する虚偽の証言をしたことを認めた」(10月6日付毎日新聞)

 「シドニー五輪前から、当時のコーチだったトレバー・グラハム氏から『クリア』と呼ばれる薬物を渡されていたことを告白。・・・ジョーンズは『(薬物使用により)回復力が早くなり、タイムが伸びた』と証言した」(同上)

 1988年のソウル五輪のときの、男子100mのベン・ジョンソンや、その後使用を疑われた女子100mのフローレンス・ジョイナーのときにも感じたことだが、これだけの才能、素質の持主なら、薬物を使用しなくても、十分金メダルはとれたのではないか、ということだ。しかし、当人にしてみれば、超一流のクラスは紙一重の差で競っているのだから、さらに一歩抜け出すために、より確実に勝利を得るために、人類未到の記録を残すために、薬物をすすめられれば、思わず手を伸ばしてしまうのかもしれない。そして、オリンピック金メダルの市場価値は、その後の生活に大きなプラスとなるだろうから、コーチにすすめられたら、つい従ってしまうのだろう。

 ここまで書いてきて、続報を読んだ。

 「米国オリンピック委員会のピーター・ユベロス会長はリレーの他のメンバーにも自主的なメダルの返還を呼びかけている。400mリレーのメンバーのうちトーリ・エドワーズとクリスティ・ゲインズは別の機会にドーピング違反が発覚して処分されており、米国陸上界の薬物汚染の根深さを物語る」(10月10日付朝日新聞)

 そして、11日AP共同電は、400mリレーメンバーのもう1人、パッション・リチャードさんは、メダル返還を拒否する、と伝えている。「わたしはフェアに戦った。他人の愚行の結果を受け入れる考えはない」と彼女は話している。当然だ。

 ジョーンズ1人ではなかったのか、同僚も使用していたのか、一国を代表する短距離選手は殆どが薬物を使用しているのか、と思わせる報道である。たしかに薬物汚染は根深い問題だ。さらに、こんな記事も出た。

 「(IOCの規律委員会委員でもある)バッハIOC副会長は・・・『彼女は選手としては引退したが、将来コーチや別の立場で五輪に戻ってくる可能性もある』とも指摘し、五輪からの永久追放など踏み込んだ処分を検討する可能性を示唆した」(10月10日付毎日)

 この記事を読んで、ここまでやるのはIOCのやりすぎではないか、と思った。ジョーンズ選手が涙を流すクローズアップ写真を思い出したからではない。

 薬物を使用したことによる処罰として、金メダルなどのはく奪と記録抹消(ほんとうは追風参考記録があるように、薬物参考記録として残してほしい。彼女が猛練習をしたのは事実なのだから。薬物使用しなかったら、銅メダルもとれなかったかもしれないが、素質十分の選手であることは事実で、薬物を使用した結果が金メダルとなった。その処罰は金メダルはく奪で十分ではないか)は納得できるとして、彼女の将来、例えば自分の経験(薬物を使用したという悪しき経験もふくめて)を生かしてコーチになることまで否定するのは行きすぎではないか。彼女は薬物使用を告白することで、十分に社会的制裁を受けている。彼女の将来までを否定する永久追放はやりすぎではないか。薬物使用者の将来の社会(スポーツ界)復帰は認められて当然だと思うのだが。IOCにそこまでの権限があるのか。悔いあらためた薬物使用経験をもつコーチの方が、薬物にはよりきびしくなるのではないか。ジョーンズの残念な経験を生かすことの方が、永久追放にするよりずっと社会の役に立つと思うのだが。

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