スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.342-2(2007年3月9日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
徹底議論を望みたい東京五輪招致

 東京都知事選の大きな争点として、2016年の東京五輪招致が挙げられている。出馬表明した浅野史郎・前宮城県知事はこの計画を「見直す」といい、建築家・黒川紀章氏は「中止する」と断言。日本共産党推薦の吉田万三・元足立区長は「白紙」と言っている。ただ、争点とは言っても何が議論になるのかは分かりにくい。少し長くなるが、立候補予定の発言などから4人の立場を見てみたい。

【石原慎太郎氏】
 「アジアの代表都市である東京が、ここまで成熟を遂げてきたことの大いなる証しとして、欧米の地域以外で初めてとなる2回目のオリンピックを東京で開催し、世界の範となる21世紀の都市のあり方を提示することが、東アジアのダイナミックな発展と世界の繁栄をもたらす大きな契機になる。これこそが東京開催の意義」

 「東京の唯一の欠陥である環状線の整備などを試み、また、緑化を新しい施策で進めていく。日本が誇る最先端技術と独特の感性や美意識を融合せさ、新しい価値を創造して、世界に波及させること。次いでは、次の世代を担う子どもたちにスポーツの夢と喜びを広め、オリンピックの生み出す有形無形の財産を未来に引き継ぐ」
(いずれも昨年5月12日の定例記者会見で)

【浅野史郎氏】
 「2016年のオリンピック招致にかける費用、人員、労力が多大なものになることを考えれば、都政における数々の課題の中で、真に優先すべきものであるかどうかは、慎重に考え直す必要がある。一部の人たちや団体の思い入れが先行しているように見えるが、都政の他の課題山積の中で、オリンピック招致が、都民が真に望んでいる課題なのかどうかを見極めつつ、判断していく必要がある」(「出馬表明にあたって」より)

【黒川紀章氏】
 「オリンピックの財源については、最終的な都の負担費は466億円とされている。平成19年の予算概要からみると、石原都政は、東京の本来やるべき街づくり、芸術文化の振興、CO2対策、自然環境の保護のいずれについても後退している。福祉政策についても、すべて平成18年度とほぼ横ばいの配分率となっており、結果としてオリンピックのために、福祉や本来の街づくりが切り捨てられていることは明らかである。この点を改め、東京の福祉や、街づくり、環境対策に取り組むためには、オリンピックの中止しかないと断言できる」(都知事選マニフェストより)

【吉田万三氏】
 「莫大な税金を使うような石原知事のすすめるオリンピック計画はやめるべき。それは、競技施設の整備などに1兆円以上の資金がかかるだけでなく、オリンピックをテコにして、首都圏中央連絡道、外郭環状道路、首都高速中央環状品川線のほか、羽田築地間のトンネル道路や臨海部の広域幹線道路などの7兆円を超える基盤整備事業を、一気に完成しようという計画だからです。石原知事のオリンピック招致計画を白紙にもどし、都民の参加で再検討します」(都政改革プランより)

 石原知事は中央区晴海にメーンスタジアムを新設し、一部競技を除き、半径10`圏内で開催できるコンパクトな計画をアピールしている。一方、石原氏以外の3人は五輪開催の税負担を懸念し、見直し、中止、白紙と言っている。だが、税負担という柱だけで問題を論じられるだろうか。真の争点とするならば、五輪開催の本来意義、国際社会への貢献価値、近代五輪の諸問題などを徹底議論してほしい。しかし、そうした論点を提示できる日本オリンピック委員会(JOC)も役員改選をめぐって足元が揺れており、本格的な論戦はいまだ始まりそうにない気配だ。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件