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vol.355-2(2007年6月8日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
石川君はいつまではにかんでくれるか

 「ハンカチ王子」の次は「ハニカミ王子」かと、過剰報道にいささかうんざりさせられていたら、やはり問題が起きた。TBSの情報番組が石川遼(東京・杉並学院高)の同伴競技者に小型マイクの装着を依頼し、断られていたという一件だ。スポーツ取材の常識を逸脱した、とんでもない取材手法だった。

 日刊スポーツが一報を報じた6日、同僚や他社の記者と話し合う機会があった。われわれ活字メディアの反応で多かったのは「テレビ局の人間は、こんなことまで考えるのか」というものだった。新聞記者ならば、試合が終わってから同伴競技者に取材に行って、「石川君はプレー中、どんな話をしていたか」などと質問するだろう。これに対し、テレビはもっと映像に臨場感がほしいのかも知れない。関東アマチュア選手権という、例年ならゴルフ専門誌以外はほとんど報じないような大会だ。取材制限もさほど厳しくないから、「どんなことでも許される」と考えたのか。小型マイクの装着という手法を聞くと、芸能人のゴルフ番組でも作るような感覚だったのか。同伴競技者にも失礼きわまりない。

 かつてサッカー取材で、今回と同じような手法が問題となったことがある。あるテレビ局が、取材が禁じられているロッカールームの映像をドキュメンタリー番組で流し、それが記者クラブで取り上げられた。

 その局がロッカールームに入って取材したのではなく、チーム関係者に撮影を依頼したというのが真相のようだった。番組で放送された映像を見ると、チームスタッフが小型カメラで撮影しているものと推測された。ドキュメンタリーの内容としては非常に面白く、「テレビにやられた!」と嫉妬したことを思い出す。

 大相撲を担当していた頃、先輩記者から「支度部屋を描け」と言われたものだ。支度部屋の様子はほとんどテレビには映し出されない。だからこそ、新聞記者は支度部屋や朝げいこを取材して、テレビには出てこない裏話を聞き出せ、というアドバイスだった。ところが、今やテレビカメラがロッカールームにも入り込んでくる時代になってきた。今回はその風潮がエスカレートし、スポーツ取材の一線を踏み外したともいえる。

 注目が高まり、各メディアの報道が過熱してくると、競技そのものよりも、「裏話」の取材に力点が置かれがちになる。テレビや新聞各紙を見ても、今のところ、彼の言動はよく報道されているが、ゴルフの技術の素晴らしさがどれほどなのかが分からない。それはメディアが競技をしっかりと伝えていないからではないか。プロとのオープン大会で優勝して一躍脚光を浴びたが、今回は関東でのアマチュア大会で8位。ゴルフ記者はどう評価しているのか。

 この15歳は、マナーの悪いギャラリーを自ら注意していた。同伴競技者がプレーしている時に動いた観客を「止まってください」と制する映像を見ると、ゴルファーとして、アスリートとしての質の高さを感じさせる。競技を伝えない取材者、競技を理解しないギャラリー。こんな問題が続けば、石川君はいつか、はにかんでくれなくなる。

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