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vol.366-2(2007年8月24日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
佐賀北優勝の「謎」を考える

 夏の甲子園を制した無名の県立校、佐賀北。現場で取材している我々の間では「なぜ佐賀北は強いのか?」の話題が絶えなかったが、取材を重ねても、明確な答えが導き出せたわけではない。ただ、何となく分かってきたこともある。

 特待制度問題で揺れた今年、49代表のうち、25校が日本学生野球憲章に違反する特待制度を実施していたと申告した学校だった。選手たちがマスコミ向けに答えたアンケートによると、青森山田の選手が「対戦したい選手は?」の質問に「神村学園の××選手」と答えていた。理由は「中学時代のチームメートだったから」。彼らの出身は甲子園球場に近い硬式野球チームだった。ところが、その青森山田の選手の出身中学は「青森山田中学」となっている。本人に直接聞いてみると「中学3年の冬に転校したんです」という。中高一貫校の場合、中学3年の最後の大会を終えれば、高校の練習に参加することもできる。そうして、青森山田高校に野球留学する中学生は少し早めに青森に移り住むのだ。

 こうした野球留学の実態は、ある程度予想できたものだった。青森山田が地元兵庫の報徳学園を破っても大きな驚きはなかった。すべてが特待制度や野球留学を背景にした今の状況の中では起きうることだ。

 しかし、佐賀北の優勝だけは予想できなかった。快進撃が進むにつれ、報道陣はその理由を尋ねたがった。準決勝の後のインタビューで私は百崎敏克監督に「強さの理由」を聞いた。監督は答えた。「生活面からきっちりとやることです。時間を守る、くつをそろえる、勉強もしっかりやる。野球をやっているから勉強できない、なんて絶対に言わせませんよ。ウチは」。選手たちは甲子園入り後に宿舎でも勉強をしていた。それはそれでいいことだ。だが、佐賀北優勝の直接理由とはいえない。

 アンケートをめくって選手たちの出身を調べてみたが、佐賀には硬式チームが少ないらしく、全員は地元中学の軟式野球部出身だった。公立校なので野球留学してきた選手もいない。平日の練習は午後4時半から約3時間。グラウンドはサッカー部と分け合っているという。「なぜ強いのか」の疑問はより深まった。

 ただ一つ、ヒントはあるような気がした。百崎監督が「ウチは実戦練習を削っても体力トレーニングと基礎練習はやるんです。練習時間の3分の1は体力強化、3分の1は基礎練習。一番楽しい打撃練習なんて土日にするぐらいですねえ」と説明してくれた練習内容は、選手たちの言葉からも裏付けられた。「ウチは走ってばかりですよ」「キャッチボールやゴロ捕りばかりです」「打撃練習を本格的に始めたのは夏の大会前からですよ」。そんな声が聞こえてきた。

 155`の速球を投げる投手が打たれ、打撃マシンでそんな球を連日練習しているチームが次々と敗れ去った。寮生活を送り、室内練習場で夜まで練習しているチームも、だ。そして、最後に勝ち残ったのが、ランニングとキャッチボールばかり繰り返しているチームだった。佐賀北は引き分け再試合を含め、7試合を戦ったが、2人の投手に疲れはほとんど見られず、野手のミスも少なかった。エラーはわずか4つだけ。それも接戦での強さに表れた。

 決勝は逆転満塁本塁打という劇的な勝ち方だった。しかし、この地味なチームは、高校生には基礎技術と体力が重要だということを改めて教えてくれたのである。

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