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vol.379-4(2007年11月30日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
高校を次々と付属化していく大学

 高校ラグビーの名門、大阪工大高などを経営する学校法人、大阪工大摂南大学(大阪市)と、こちらも高校ラグビー界全国屈指の強豪、啓光学園(大阪府枚方市)の学校法人が経営統合するというニュースが飛び込んできた。大阪工大高は来春から「常翔学園高」に名称変更することがすでに決まっているが、啓光学園も「常翔啓光学園」に変わる見通しという。両校ラグビー部が統合されるわけではないが、啓光学園は中学校も併設しており、両学校法人は、統合によって中学、高校、大学の一貫教育体制の実現を目指しているという。

 最近、大学が既存の高校を付属化していく傾向が目立ってきた。今春の選抜高校野球大会に出場した大阪の北陽は来春から関西大、京都の古豪、平安も龍谷大の付属校となることが決まっている。関西大はこの統合を発表した時、北陽の野球部やサッカー部の実績を高く評価していたが、スポーツ強豪校が大学の傘下に入るケースが多いようだ。

 スポーツで知名度のある高校は、それだけでもPRという面で統合の価値が高い。さらに、優秀なスポーツ選手がそのまま大学に上がってくれば、大学のスポーツ強化に貢献し、さらに大学の知名度を上げてくれるという期待もある。高校側からすれば、大学の付属ということで生徒を集めやすい。ともにメリットを共有できる提携である。

 ところが、高校のスポーツ現場を取材していると、指導者や選手は統合をあまり歓迎していないように思える。自分たちや先輩が築き上げてきた歴史や伝統を断ち切られるような思いがするのだろう。

 近ごろまで知らなかったが、私立大学が公立高校を付属化するという動きまで起きているのには驚いた。

 立命館大を経営する学校法人、立命館(京都市)が、岐阜市に対して市立岐阜商高の運営移管を提案し、「立命館岐阜高校」を設立しようとしているそうだ。高校野球では県立岐阜商高と並ぶ伝統校として知られ、「県岐商」「市岐商」の略称でおなじみだ。岐阜新聞など地元の報道によると、立命館は09年度からの開校を表明し、10年度からは中学校も併設する考えを示している。卒業すると立命館大や大分にある立命館アジア太平洋大に進学できるという。

 市立高校には生徒が集まりにくくなり、授業料収入と経費のバランスがとれなくなって市の財政を圧迫するようになった。そこに大学から話が持ち掛けられた。立命館の提案は今年2月のことだったが、岐阜市議会では「事前説明がなかった」などと反発。その後、有識者会議を設置して議論が続けられている。市民の税金で運営されてきた地元の学校を私立に明け渡すことにはやはり異論は強いようで、「県岐商と一体化するべきだ」という代替案も出ているという。

 少子化時代の生き残り策を各大学や高校が模索している。次々と進められる大学の高校付属化。それらは企業の吸収合併と何ら変わりがない。学校法人は企業であり、経営の論理に歴史や伝統が入り込む余地はないのかも知れない。しかし、学校は教育機関だ。在校生や卒業生、地元の人たちの感情も考慮されないのはどこか残念な気がする。

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