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vol.380-1(2007年12月7日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
「ラグビーを裏切った」の言葉は重い

 ラグビー部員14人が大麻事件に関与していた関東学院大の春口広監督(58)が引責辞任を表明した。入院中の病院で会見した春口監督は「ぼくは最もラグビーが好きです。そのラグビーを裏切ったことは間違いのないことです。ですから辞めます」と語ったという。「ラグビーを裏切った」という言葉が重く響く。

 春口監督はラグビーというスポーツに敬意を払っていたに違いない。だから、「ラグビーを裏切った」という表現が口を突いて出てきたのだろう。規範意識やフェアプレーの精神、困難へ立ち向かう勇気、相手への思いやり、一丸となって目標に突き進む団結心・・・。ラグビーというスポーツはそんな価値観を若者に植え付けてくれる。しかし、学生日本一を毎年のように争うまでになった常勝軍団の内部では、そうした意識は希薄になっていたのかも知れない。

 今の日本の学生スポーツを取り巻く環境は、すべてこの問題に通じているのではないか、と思えてならない。薬物だけではない。他の大学でも信じられないような犯罪に手を染める選手がいる。高校でもそうだ。逮捕はされないまでも、暴力やいじめがはびこり、窃盗や万引きの不祥事が次々と競技団体に報告される。

 スポーツをする学生がスポーツだけの特殊な世界に育ち、一般社会とは切り離されたような環境で生活を送る。そうして育った若者が社会のルールを破る。能力ある子供たちを早くから発掘して特殊な環境で純粋培養し、トップレベルの選手に育てていく。国際的にも活躍できるような選手がいなければ、その競技の人気も低下し、競技人口も減少していく。だから、エリート競技者を育成する必要がある。多くの競技団体がそんなことばかり考えているように見える。

 スポーツの持つ教育価値が軽んじられ、むしろ、利用価値ばかりが重んじられるようになってはいないか。優秀な選手にとって、スポーツは進学や就職の道具にもなっている。学校や企業は知名度を上げる道具としてスポーツを利用し、優秀な選手をかき集める。そうしてスポーツ選手は特殊な存在として扱われる。

 部員8人から始まった関東学院大ラグビー部が関東大学3部リーグで初めて優勝した時、受け取った表彰状には鉛筆で「関東学院大学」と書かれていたという。横浜・中華街で開いた祝勝会で春口監督は「悔しくないのか。絶対1部に上がって秩父宮へ行こう」と選手たちを叱咤し、マジックで大学名を書き直して選手たちの闘志を駆り立てたそうだ。そんなエピソードを事件発覚前のNHKの特集番組で見た。

 弱いながらも純粋にラグビーに取り組んでいた時代。いつから選手たちは「ラグビーを裏切る」ようになったのか。その分岐点は何だったのか。春口監督には自らの指導者生活を振り返り、スポーツ界のためにその答えを示してほしい。監督辞任で決して責任をとったことにはならない。ラグビーの神様がそう言っているはずだ。

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