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vol.401-2(2008年5月16日発行)
葉山 洋 /マーケティング・コンサルタント

ラテンのドンが去っていくのか?

 FIVB(国際バレーボール連盟)のルーベン・アコスタ・エルナンデス会長(74歳)が任期を2年残して辞意を表明した。来月のFIVB総会(ドバイ)をもって退任する意向だという。規約通りであれば、筆頭副会長のウェイ氏(中国)が会長職に就くことになる。アコスタは1984年のロサンゼルスオリンピックの際に開かれたFIVB総会で会長に就任して以来、幾度の再任を果たし、世界のバレーボールを率いてきた。

 メキシコ人のルーベン・アコスタは、FIFA前会長のジョアン・アベランジェ(ブラジル、在任1974〜98年)、IAAF(国際陸連)前会長の故プリモ・ネビオロ(イタリア、在任1981〜99年)、IOC前会長だった故ファン・アントニオ・サマランチ(スペイン、在任1980〜2001年)とともにスポーツ界におけるラテンパワーの一角を占めた最後のドンである。メキシコ人としては(なんと兄弟である!)ANOC(各国オリンピック委員会連合)のマリオ・バスケス・ラーニャ会長(1979年より)、ISSF(国際射撃連盟)のオレガリオ・バスケス・ラーニャ会長(1980年より)がいまだ隠然たる力を示しているが、国際的な知名度としては4人に比較すると見劣りする。

 前任で初代のポール・リボーFIVB会長はフランス人であり、サマランチの一代前のキラニン卿(アイルランド)、ネビオロの前のエイドリアン・ポールセン(オランダ)、アベランジェの前のスタンレー卿(イギリス)と考え合わせると、当時スポーツ界にはアングロサクソン系からラテン系に向う抗し難い流れがあったような気がする。今やIOCはベルギー人、FIFAはスイス人、IAAFはセネガル人と、小国の出身者が会長の地位に就いているのは大変興味深いことだ。

 200前後の国を束ねる国際スポーツ連盟の会長職の維持は、まさにパワーゲームである。そしてパワーの源泉は政治力と資金力である。その意味でアコスタ会長は2つの強力な味方に支えられて自らのポジションを強固なものにしてきたと言えるだろう。

 そのひとつはジャパン・マネーである。東京オリンピックでの金メダル以来、バレーボールは日本人が最も好むスポーツのひとつとして定着した。オリンピック競技に採用されたのも東京が最初で、開催国の日本がメダル獲得の可能性が高いという理由で柔道とともに加えられたのだ。しかしながら国際的な実力は次第に低迷するようになり、ロス・オリを最後にメダルには届いていない。

 にもかかわらず日本のファンは声援を絶やさず、多くの国際大会が誘致され、テレビ局はこれでもかとあおり続けてきた。アコスタ会長は開催地の選定や予選の仕組みなど、日本に有利に働くように(オリンピックに出場できるように)計らってくれたのだが、FIVBに支払われてきた放送権料は巨額である。組織としてのFIVBの財務基盤は日本企業が支えてきたといっても過言ではないのだ。フジテレビ、TBSそして電通は「FIVBグランドクロス」という最高の名誉賞を受賞している。

 あまりの日本贔屓に不満を抱いたイタリアほか各国協会が2年前の総会時に連盟脱退を匂わせたこともあったが、会長は「日本には感謝しているが、FIVBはフェアにやっている」として一歩も譲らなかった。

 もうひとつアコスタを支えたのは他ならぬ会長夫人。グラマラスな容姿で知られるマルー・アコスタである。愛妻家の会長はどのような機会でも夫人同伴で現れることで知られている。大会や会議はもちろんのこと、ビジネスミーティングも例外ではない。公式な立場は持たなくても、事実上会長の側近として誰もが一目を置く存在である。事実あらゆる問題を相談してきたパートナーであり、愛妻家と言うより恐妻家と称した方が当たっていそうだ。

 アコスタがFIVB会長に就任した翌年、海外での記者会見に参加したことがあった。場所は香港のホテルだったと思う。50歳のまだ若々しいルーベン・アコスタが質問に答えようとすると、最前列に陣取ったマルー夫人がたびたび声をかけていた姿を思い出す。夫人のアドバイスに素直に耳を傾けていたスポーツ連盟トップの態度に驚きを禁じえなかった。

 但し、船場吉兆のささやき女将とは似て非なるものであった、と最後に言い添えておきたい。

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