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vol.410-3(2008年7月24日発行)
賀茂 美則 /スポーツライター(東京発)
アメフトの選手に反抗期はない???

 アメリカに住んで26年になるが、「反抗期」という言葉を英語で聞いたことがない。日本では曰く、2, 3才と13, 4才が第1次、第2次反抗期のピーク、云々となっているが、筆者が知る限り、少なくともティーンエージャーによる「第2次反抗期」という考え方はアメリカにはない。

 その一方で、ティーンエージャーのスポーツ選手を持つ親の応援の仕方が、日本とアメリカで全く違うことも面白い。つまり、日本では試合に親が応援に来るのは恥ずかしいと思っている中学生や高校生が多いらしく、朝日新聞連載の「ののちゃん」にしても、中学生の長男の野球の試合を隠れて見に行く家族、が一つのモチーフになっている。

 その反対にアメリカはどうか。中学、高校、大学になってまで、子どもの試合は親が見に来るのが当たり前である。いくら筆者の住む町が田舎とは言え、平日の4時からの野球の練習に父親がずらっと集まる、というほど一生懸命なのはどうかと思うし、自分の仕事はどうなってるんだ、と思わないこともない。しかし、親が試合に来なければ、子どもはそれを寂しく感じるのが普通だし、親の方は万難排して試合にかけつける。全校挙げての行事である高校のアメリ カンフットボールは年間に10試合しかないこともあって、特にその傾向が強い。スター選手の親がスタンドにいない、ということはほとんど考えられないし、 遠征ともなれば金曜日の午後1時に出発する貸し切りバスが親でいっぱいになるのだ。

 さて、以前から、子どものスポーツに親がかかわることと反抗期との間に関係があると疑っていたのだが、日本でアメリカンフットボールをやる中学生の親御さんと話していて、ヒントをつかんだ気がする。

 つまり、「日本のアメリカンフットボールの選手には反抗期がない」のだ。

 日本で行われているとはいえ、アメリカンフットボールはアメリカから輸入された競技である。応援の仕方もアメリカに似ており、家族総出で出かけるのが普通なようだ。他のスポーツに比べ、ヘルメットやプロテクターなどの用具が高価なので、その購入などに親がかかわることが多いし、練習や試合までの 用具の運搬が大変なので、一家で車で出かけることが多い、ということも影響しているかも知れない。アメフトというスポーツに関する情報は簡単に手に入るものではないので、選手のプレーについて、父親がアドバイスすることが多い、ということもあろう。もちろん、アメフトをやっていても親とのコミュニケーションがうまく取れない子どもがいることも確かだが、割合としては小さいようだ。

 いずれにしても、日本のアメフト選手の特徴は、親、特に父親との会話が多いことである。その結果(と筆者は信じたいが)、「反抗期」なるものがない、もしくは非常に少ないのだ。もちろん、日本でアメフトをする選手の家族、というのは平均的な家族ではない。教育や収入など、平均以上であるだろうし、アメリカ人のように家族を第一にする親も多いかも知れない。

 アメリカで、子どもが親に「反抗」する場合、その父親は往々にして社会経済的な地位が低く、家族との時間が十分に取れない。さらには古くさい考えを持っているせいで、子どもとの対話が成立せず、コミュニケーションの量、質共に十分ではない場合が多い。結婚生活の満足度を知るのに一番良い指標は 夫婦間の会話の量だというのは家族社会学で良く知られた事実である。親子の関係にこの知見が通じない理由もない。

 もしも、日本のアメフト選手に反抗期というものが見られない、あるいは少ないのであれば、それは子どもと親、特に父親との会話の量が影響しているのではなかろうか。もしそうなら、ここに日本に独特(?)な「反抗期」をなくす、もしくは少しでも和らげる答えが隠されているのではなかろうか。

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