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vol.392-1(2008年3月10日発行)
松原 明 /東京中日スポーツ報道部
「家本審判の悲劇」

 サッカー・シーズンの到来を告げる、ゼロックス杯で、ファン乱入の事件にまで発展する、後味の悪い結末にがっかりされた方は多いと思う。退場3人、警告8人のカード続出の試合には、サッカーの楽しさ、面白さは全くなくなっていた。

 家本政明審判(34)は無期限の出場停止処分を受けた。すでに、2006年に1ヶ月間も研修を命じられるトラブルメーカーになっていることから、今後の再起は難しい、と思われる。

 試合は前半12分、鹿島のDF・岩政選手が、広島GKの保持していたボールを「早くよこせ」と、奪おうとした行為に対して出された2枚目のカードがきっかけだった。これで退場処分。しかし、スタンドで見ていた大多数の人は何が起きたのか、理解できなかったに違いない。

 この釈明を聞いたのは、6日、本人が出席した会見。「あれはファウルだがイエロー・カードではなかった。試合を不安と混乱させてしまった責任はある。今後は、多くの人に賛同を得られるジャッジをしないといけない」と、自分の非を認めたが、もう、後の祭りである。

 問題は、過去に再三トラブルを起こしている家本審判を、何故、みんなが注目しているこの日に起用しなければいけなかったのか、という点である。私は単独で松崎康弘・審判委員長に、その真意を聞いたが「過去をここで精算して、立派に立ち直った姿を見せて欲しい。そのための舞台だった」と、明らかにした。

 しかし、これが、過度のプレッシャーになったのではあるまいか。審判の配置は1週間前に決まり、担当審判は心身の準備をする。家本審判は「ヨシ、今度こそ」と、内心に誓い、臨んだのが、すべて裏目に出た。正確に、厳正に、と意識するあまり、岩政をわずか12分で退場に追いやり、広島のMF・李も前半38分、警告2枚で消えてしまった。両チーム10人になると、双方、勝てばいい、と、プレーの質が落ち、試合は乱暴になって行くばかりだった。

 家本審判の意図したのと、逆の方向へ、どんどん流れていった。審判の役目は「試合をスムーズに流れさせるように、選手との信頼関係を保つ」ことにある、とされている。この日は信頼関係どころか、険悪になるばかりだった。

 審判委員会は、試合のビデオを見せ「PKでGKの動きが早いのを正確に見ていた」と弁護していたが、「何で」といらだつ選手たちには通じなかった。試合後の審判に殺到した選手の表情を見ても分かる。この日は1級審判研修会が試合会場の国立で開かれ、90人の審判は注視していた。だから、だれでも選ぶことができたのだった。その中からあえて家本を選んだ松崎委員長の「晴れ舞台で再起をアピールして欲しい」の親心がかえってアダになってしまうとは。

 悪いことに、川淵三郎キャプテン、鬼武健二チェアマンの両首脳とも「対応が悪すぎる」と、家元審判を非難したからたまらない。これが日本中に報道され「対応の悪い審判」が決定付けられ、世間の見る目はさらに厳しくなる。今度の研修期間は未定だが、審判続行は暗い。普通の試合で自然に吹いていれば、家本審判はあんなトラブルは起こさなかったはず。彼は9人しかいないプロ審判の1人。その中に選ばれて入ったのが運命を狂わせた。

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