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vol.427-1(2008年12月3日発行)
松原 明 /東京中日スポーツ報道部
「Jリーグ拡大の危機」

 Jリーグは1日、理事会を開き、新たに3クラブのJ2リーグ参入を承認。2009年シーズンは、1、2部とも各18クラブの体制になった。プロ・クラブが36にもなり、プロ野球の3倍にもなる。他の競技団体にはない多さで、この一気の拡大路線が、果たして吉か凶か、分からない。

 世界金融不安が日本経済を直撃。主要産業は、軒並みに後退する今、レジャー産業には、最悪の環境なのは明らかである。Jリーグは将来構想委員会の計画に沿って、全国へのサッカー普及を推進。今季の3クラブの参入は、その第1歩だった。かつては昇格には、厳しい条件を付けていたのが、今や、JFL(アマ全国リーグ)の4位以内ならOK、とゆるやかになった。以前はスタジアム、資金面、補強、ユースの保有、などをクリア出来なければ、加入見送りになっていたが、この構想委員会の青写真に乗って「全国には100を超える、参入希望クラブが待機している」と、急速に拡大路線に進んでしまったのは、危険ではないだろうか。現在、昇格の3クラブとも、財政面の不安を指摘され、急仕上げで間に合わせてきたが、資金面の保証がOKか、というとそうではない。

 今年度昇格した岐阜は、大手スポンサーを持たない苦しさを乗り越えられず、人件費縮小を決め、ベテラン15選手を解雇。大学生9人、高校生2人の新人中心で、2009年シーズンへ臨む方針だ。今西社長は「1年間やってみて、とても、この現状では来期の展望がない。来期は全員C契約でやるしかありません」と内情を打ち明けた。

 C契約とは、年俸490万円以下の選手で、試合に出場して実績を残せば、A契約へ進めるが、このクラブの内情では、昇級も夢ではあるまいか。参入する3クラブには、「プロ経営の前途は厳しいゾ」と、警告するいい見本である。

 大手スポンサーがいない市民クラブ、J2の湘南も2つのスポンサー倒産で資金ぐりが出来ず、中期決算で1億円を超える赤字に悩み、37選手から30選手以下に切り詰める。まだ、新人採用も2人しか決まっておらず、前途は多難だ。今や、かってないほどの大量リストラ時代に入った。有名、無名を問わず、年俸の高い選手はどしどし切り捨てられている。再びJ2転落の危機に立つ東京Vは、親会社の日本テレビの経営難から、中心選手11人も解雇した。補強資金も大幅に減った。

 Jリーグは「身の丈に見合う経営を」と、主導してきたが、ファンを楽しませ、夢を売るプロ・スポーツがあこがれの的でなくなれば、果たしてファンは観戦に来るだろうか。

 各家庭では生活のために、レジャー資金は節約するしかない。こういう時代に、「たまにはサッカーでも」と、観戦に来ても「この程度のプレーしか見せられないのでは、もうこの次はいい」と、失望してしまうのではあるまいか。

 Jリーグのグッズも売れなくなった。JリーグをPRしてきた、新聞、雑誌、テレビの各メディアも、サッカーへの扱いを縮小しつつある。スポンサーの撤退、規模縮小、倒産も少なくない。

 矢面にたったJリーグ、鬼武健二チェアマンは「放送権料、スポンサーも少しずつ増えているが、不安はある。そこを改善、改革で乗り越えて行けねばならない。今季は目標の950万人動員は無理になった。各クラブの積み上げを、来期こそのアピールを期待したい」という抽象的な表現で話すに止まった。

 Jリーグ創立の1993年から取材してきたが、かつてないほどピンチの今季のオフ。全員でどう切り抜けるのか、見守るしかない。

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