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vol.388-1(2008年2月13日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
「リハビリはウソをつかない」

 2月10日、11日の2日連続で、NHK総合テレビで「闘うリハビリ」というドキュメンタリーを見た。脳梗塞などで半身麻痺した人を、手術後、できるだけ早く手足を動かす、寝たきりにしない、そのことによって、脳の中に新しい神経回路ができ、身体機能と脳が同時に活性化するという最先端医療の実態を記録した大型特集番組だった。その冒頭に長嶋茂雄さんが登場したのには驚いた。

 '04年3月に脳梗塞で倒れた長嶋さんは、右半身に麻痺が残っている。歩行もまだスムーズではない。天井から下がった何本かのベルトで体を安定させ、流れるように動くベルトの上を懸命にジョギングする姿に、胸をつかれた。現役時代、人一倍練習に励みながら、その姿を人に見せなかった長嶋さんが、不自由な体にムチうつようにリハビリする姿をカメラの前にさらしてみせたことに、びっくりし、ジンとなった。多くの人のために、今、自分は何ができるか、考えた末のことだろう。

 つづいて、青山祐子アナウンサーのインタビューを受けた。言語障害も少し残っていて、発音は明瞭には聞きとれないところもある。それでも長嶋さんは、力を込めて話した。目標は走れるようになること、と迷いなく言い切った。そして、今、大事なことは「自分に負けないこと」だ、と言い、「リハビリはウソをつかない」と、明るく宣言したところがいかにも長嶋さんらしくてよかった。現役時代も、監督時代も、いつでも長嶋さんは「自分に負けないこと」「練習はウソをつかない」と信じて、生きてきたにちがいない。その姿勢は右半身麻痺となった今も、少しも変わらない。何よりもあの笑顔は、以前とまったく同じだ。

 2000年秋、長嶋ジャイアンツと王ホークスで日本シリーズを戦ったあと、ON対談の司会をしたことがある。2時間近くの対談が終ったあと、私は2人に「ONはこれから、プロ野球界のきんさん、ぎんさんになって、いつまでも長生きしていただきたい。ONがいつまでも元気ならば、年金が少々減ったところで、同世代人はみんな元気に生きていけると思いますから」と言った。長嶋さんは「そうですか、われわれONはこれから、きんさん、ぎんさんになるべく、100歳まで生きるわけですか」と明るく笑った。お二人にはOFFではなく、ONがよく似合う。

 王貞治さんも胃ガンの手術から復活した。長嶋さんも脳梗塞から、今、復活の道を歩いている。ONのその姿は、時代に対する貴重なメッセージとなっている。

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