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vol.404-2(2008年6月4日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
ジャーナリスト中田英寿の誕生?

 6月2日夜、日本テレビで「中田英寿の真実」というドキュメンタリーを見た。いろいろ考えさせてくれる、いい番組だった。W杯ドイツ大会を最後にあっさり引退、その後は“自分探し”の旅をつづけている、といわれていたが、その一端が垣間見えた。

 まだ31歳だという。早々と引退して、長い人生、何をするのだろうか、と他人事ながら心配していた。このドキュメンタリー番組を見て、中田のことが少し分かってきたような気がした。

 ブータン、チベット、スウェーデン、ブラジル、イースター島、アフリカ諸国・・・と実に数多くの国々を歩いている。自然環境破壊、内戦や紛争、貧困、病気、災害・・・など現実の地球的“大問題”にアタックするかのように、生々しい現場をたずねている。直接、英語で取材し、英語が通じないときは通訳を通して、ナイーブなジャーナリストのようにインタビューをしている。技巧的なインタビューではなく、言葉数も多くはないが、ごく自然体のインタビューで、嫌味がなく、見ている方も素直にその場面に没入できる。

 数年前、ルワンダのフツ族とツチ族の争いで、大量の死者が出た。今も身元不明の頭蓋骨が大量に残されている。不倶戴天の敵ともいえる、そのフツ族とツチ族の間で、少しずつ融合が始まっているのか、結婚までこぎつけた若い夫婦にもインタビューしていた。さすがに、自然体の中田の質問でも、なかなか夫婦は堅い表情を崩さなかった。内戦、大量虐殺のことになると、いっそう口が重い。そのうちに、中田はサッカーボールを取り出して、その夫婦や子供たちもまじえて、ボールを蹴りはじめた。次第にその夫婦が笑顔になっていくシーンは、感動的だった。

 中田はすばらしい秘密兵器を持っている! サッカーボールという秘密兵器を。言葉だけで初対面の人に心を開かせるのは容易ではないが、サッカーボールがあれば、世界共通言語を手に入れたようなものだ。ボールを蹴っているうちに、誰でも心を開いてくれるのではないか、と思わせた。中田の、超一流のサッカー技術を秘めたボールの威力は、想像を超えるものがありそうだ。その可能性を強く感じた。

 サッカーボールとともに、小型テレビカメラをもって、1人で世界の果てまで歩き回る、新しいタイプのジャーナリスト中田が誕生するかもしれない。言葉が動かなくなったら、ボールを蹴って気持を動かす。相手も言葉でなく、全身で気持を表現するだろう。ボールを使った肉体言語をひきだす。

 これまで、中田はジャーナリストの取材に背をむけることが多かったが、中田自身がジャーナリストになってくれるならば、話はまったく別である。スポーツはもちろん、環境問題、食料問題、地球温暖化問題・・・何でもいい、中田の興味のあるところ、どこへでもボールを蹴り込んで、問題を発見してほしい。

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