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vol.424-3(2008年11月13日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
太めの体型の選手の楽しさ

 最近のスポーツ選手には珍しい太めのスターが出現した。韓国の女子プロゴルファー申智愛(シン・ジエ=20)と西武ライオンズの若きホームラン王“おかわり君”こと中村剛也。スポーツ選手にとって「体重」はもっとも気になることだ。ときには敵にもなる。体重がふえ、体脂肪が増すと、自己管理能力をきびしく問われる。怪我もしやすい。柔道、レスリング、ボクシング、ウェイトリフティングなど、体重別のクラス分けがある競技は特別に気になるのが体重だ。

 昔、プロボクシングの世界チャンピオンになったガッツ石松さんに、体重との闘いを聞いたことを思い出した。

 「固形物はもちろん、最後には水も飲めなくなる。それまでも、体をしぼりにしぼっているから、何グラムか減らすのに、まさに飲まず食わずで練習して、汗をかいて少しでも体重を落とす。試合直前の合宿中のホテルの入り口に、大きな金魚の水槽があって、その水を腹いっぱい飲みたい、と、夢にまで見たものです」

 タイトルマッチのときはいつでも、そんなに減量で苦労するなら、試合日は半年位前には決まっているのだから、時間をかけて少しづつ体重を落としていけばいいのではありませんか、というと、「そんなチマチマした精神では、世界タイトルなんか絶対とれない。ここぞ、というとき集中的にガーッと自分を追い込んでいくファイトが必要なんです」とガッツ流の自己管理法を聞かされた。

 これは例外的な“体重闘争”かもしれないが、アスリートは何らかのかたちで、それぞれ“体重闘争”をしているにちがいない。最近のアスリートはスポーツ医学の知識もよく身につけ、トレーニング法も進歩して、殆どがスマート、スリムな体型になってきた。
 
 そんな中で、11月7〜9日のミズノ・クラシックに優勝したシン・ジエは肉付きよくコロコロした体型、眼鏡の奥の目は糸をひいたように細く、いつも柔和な光をたたえ、微笑みが絶えることがない。どんな場面でも動じることなく、正確なショットを放った。アプローチもパットもみごとだった。これが20歳か、と思わせる落ち着きぶりだった。来年からはアメリカツアーを目指す、という大器である。勝負師のきびしさよりも、可愛らしさ、愛嬌のある体つき、じっと見ていると、大人(タイジン)の風格も備えているようだ。物おじしない、少女といっても通りそうなシン・ジエは、今夏の全英オープンも制しているのだから、十分な実力者だ。

 こういう柔らかい雰囲気を持ったプレーヤーがでてくると、見ている方も気分が和んできて、うれしくなる。アメリカへ行く前の、日の出の勢いのあった丸山茂樹も、どちらかといえば丸々としたユーモラスな空気をまとったプレーヤーだったが、アメリカで戦っているうちに、余計な肉がとれ、つまり体重が落ちて体つきが鋭くなり、勝負師的になった。しかし、成績はさほどパッとしなくなった。丸々コロコロとした体型の魅力が、いつの間にか失われたように思う。年齢からくるものなのか、トレーニングのしすぎなのか。私はあの体型の丸山が好きだったのだが。

 西武の中村は7年目の今年、大きく飛躍してパ・リーグのホームラン王になった。3年前に爆発しかかって、“おかわり君”と仇名がついて大いに期待されたが、そのあと2年は成績が上がらなかった。中村も太った体型を鍛えてスリムになるのではないか、と思っていたが、今年も丸々とした体型は変わっていなかった。少し安心した。こういう選手はホームランを打てばもちろん、三振しても何となく憎めない。貴重な太めの体型選手には、それなりの魅力がある。1人や2人はこんな選手がいてほしい。

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