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vol.388-2(2008年2月15日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
再び表舞台に出てきたメディア王

 世界のメディア王と呼ばれ、スポーツ界にも強い影響力を誇ったルパート・マードック氏が、ついにインターネットでの事業拡大に本腰を入れてきた様子だ。14日、米国から伝わってきたニュースによれば、マードック氏が会長を務めるニューズ・コーポレーションが、ネット検索大手、ヤフーとの提携交渉に入ったという。この動きが本格化すれば、スポーツとメディアの世界にも少なからず影響を与えるだろう。

 豪州出身のマードック氏は自国に続いて英国、米国のメディアを次々と買収してきた経歴を持つ。現在、ニューズ社の傘下にあるのは、豪州では全国紙オーストラリアンや大衆紙のデイリー・テレグラフ、英国では高級紙タイムズや大衆紙サン、衛星放送のBスカイB、そして米国ではタブロイド紙のニューヨーク・ポストや経済紙ウォールストリート・ジャーナル、映画会社の20世紀FOX、全国ネットワークであるFOXテレビ等々である。96年にはソフトバンクと組んでテレビ朝日株を買収。「黒船来襲」と恐れられたが、朝日新聞社が株を買い戻し、日本市場からは撤退した。

 スポーツ界では、BスカイBを通じてイングランドサッカーの強豪クラブを集めてプレミアリーグを立ち上げ、アマチュアに厳格だったラグビーも、南半球3カ国のスーパー12の放映権獲得をきっかけにプロ化の流れを作った。米国ではNBAのニューヨーク・ニックスやロサンゼルス・レイカーズ、NHLのロサンゼルス・キングスなどにも出資。世界の有名チームを幾度となく買収した。こうして90年代後半から世界のスポーツ界はマードック氏の拡大メディア路線にほんろうされた。

 ところが、ここ数年は不思議なことに顕著な動きがあまりなく、マードック氏が話題にのぼることも少なくなっていた。だが、メディア王は次のチャンスを伺い、ネットの世界にしっかりとした橋頭堡を築こうとしていたに違いない。そして今回、ソフトウェア最王手のマイクロソフトから446億j(約4兆7700億円)の巨額で買収を持ち掛けられたヤフーが提案を拒否した機会を逃さず、提携を模索する動きに出たようだ。

 ヤフーは検索専門であり、情報を自ら作り出す企業ではない。マイクロソフトはソフト会社である。しかし、ニューズ社は違う。取材部門を持つ新聞社や放送局を何十社も束ねるメディアなのだ。世界の人々の情報の玄関であるヤフーと結びつけば、ネットを媒介とした巨大企業の連合体が出来上がり、世界の情報の流れを握るかも知れない。

 スポーツとメディアの世界では90年代以降、有料衛星放送に巨額のマネーが集まり、そうした放送局による放映権料の高騰がスポーツのありようを変えた。主役の一人はマードック氏だった。しかし、今やその目は衛星放送には向いていないのではないか。メディア王が強い関心を抱くネットの世界にどんな変化が起きるのか。スポーツ界にも影響を及ぼすのか。大きな波が押し寄せてくる予兆を感じる。

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