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vol.396-1(2008年4月11日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
「国境なき記者団」の責任は重い

 北京五輪の聖火リレーが世界各国で妨害を受けている。一連の抗議行動は、ギリシャ・オリンピアでの採火式から始まった。北京五輪組織委員会の劉淇会長が演説する際、突如現れた男が持っていた黒い布には、五つの手錠がつながった「五輪」が描かれていた。そのニュースが世界に一斉に流れ、抗議行動のシンボルとなっている。考えさせられるのは、あの黒い布を手にして抗議に火をつけたのが、われわれの同業者ともいえるジャーナリスト組織「国境なき記者団」という点だ。

 Reporters Without Borders。1985年、パリで設立された、言論の自由や表現の自由が世界各国で保障されるよう活動している国際的な非政府組織(NGO)である。毎年、各国の報道の自由度をランキングにして発表していることでも有名だ。2007年の順位によると、調査対象となった169カ国中、中国は163位。日本は37位である。

 北京五輪の開催に際し、国境なき記者団は中国に8つの要求を表明している。@1989年天安門事件の政治犯を解放せよAネット上を含むニュース情報を制御するなB中国内での死刑を廃止せよC司法外の拘留をやめよD拷問をやめよE自由で独立した組合の結成を認めよF弁護士への抑圧をやめよG市民に対し、自宅等からの強制的退去をやめよ−−。

 一方、昨年6月には、国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長宛てに書簡を送っている。その一部にこんな文章がある。
 
「2001年のIOCモスクワ総会で北京五輪開催が決定した時、中国政府は五輪開催までに人権問題を改善することを約束した。しかし、ジャーナリストの言論の自由についても、何ら改善されていない」

 「我々は、言論の自由が保障されない現状に黙ってはいない。我々のように、世界のあらゆる場所で多くの人権保護団体が、8月8日の開幕日に備えている。活動家は北京で、そして別の場所でもデモを行う。五輪に対する敵意からでなく、中国政府に対する非難だ」

 すでに昨年の段階で抗議行動をIOCに宣言していたのである。言論の自由を求め、彼らが行動を起こしていることは理解する。しかし、今回の行動は、明らかな北京五輪の妨害になっており、五輪という世界的ビッグイベントを利用したプロパガンダといえる。こんなゲリラ的抗議がジャーナリストとしての活動といえるのか。彼らはロゲ会長への書簡にこう書いている。

 「国境なき記者団は、平和と民主主義に仕えるスポーツの強さを知っている」

 その強さを利用し、メディアを効果的に使って世界的に妨害行動を広めた責任は重い。本来、世界に平和を伝えるべき聖火リレーはその役割を果たせず、聖火ランナーがだれもいない高速道路を走るという信じられない光景がサンフランシスコから伝わってきた。

 国境なき記者団の公式ホームページにアクセスして唖然とした。彼らはあの「手錠の五輪」が描かれたTシャツをHP上で販売している。1枚30ドル(25ユーロ)=約3000円=である。こんなことで商売までしているのか?「現在、注文が多く、発送に2週間ほどかかります」。HPはそんなことまで書いている。

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