スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.407-2(2008年7月4日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
小林祐梨子がこだわる自然食

 陸上長距離の北京五輪代表に、19歳の小林祐梨子(豊田自動織機)が選ばれた。日本選手権の五千bでは、福士加代子(ワコール)や赤羽有紀子(ホクレン)、渋井陽子(三井住友海上)といった強豪を次々と抜き去る鮮やかなレース運びを見せた。あの力強い走りの裏に、私はトップアスリートの体を作り上げていく上での秘けつが隠されているような気がしている。2月に小林をインタビューした時、彼女が語る内容に随分感心させられたからだ。

 兵庫・須磨学園高を卒業後、豊田自動織機に入社。同社の国内留学制度で岡山大に進学したが、実業団登録をめぐる問題で神経質な時期でもあった。しかし、こちらの取材のテーマは「健康食生活」。特に支障なく、取材に応じてもらうことができた。

 興味深かったのは、彼女の「食」へのこだわりだった。神戸で姉と2人暮らしをしているのだが、そこへ実家から野菜が送られてくる。実家の畑で祖父と祖母が作っているそうだ。それを鍋や煮物で食べる。

 「子供の頃から冷凍食品は食べたことがないんです。だからなのか、一口食べただけで防腐剤が入っているかどうかも分かる」

 毎食といっていいほど食べているのがひじきだという。小林のような中長距離の選手にとって鉄分の欠如は走りに大きく響く。「レースをしていて、急に失速する選手はたいてい鉄分不足なんです」。だから、鉄分を多く含んだひじきを積極的に摂っている。何よりの好物は生レバーだそうだが、いつでも食べられるものではないので、いい成績の残した日の「ごほうび」。ふだんは焼いたレバーやほうれん草も食べて鉄分を補給しているそうだ。そんな話を熱心にする小林の口調から、かなりの徹底ぶりが伝わってきた。

 もう一つのこだわりは「サプリメント(栄養補助剤)を摂らないこと」だった。競技会に行くと、他の選手が何十粒ものサプリメントを口にしているのを目にすることがあるという。「でも、自分はまだ若いので、自然なものを食べるのがいいと考えています。それに今は食べることが一番の楽しみですから」。そう話す小林は、自然な食事で体を作っていくことが自分には最良だと考えている。

 体を科学的にどう仕上げていくかに腐心しているトップアスリートは多い。しかし、現代的な科学の力よりも「自然こそ一番」と割り切っている小林のような選手は少数派に違いない。

 食事の話ではないが、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が高圧酸素カプセルにドーピングの可能性があるとの見解を示し、北京五輪の日本選手団や高校野球などで使用を自粛することになった。禁止薬物の摂取ではなく、健康に悪影響を及ぼすわけでもない。だが、人為的に酸素運搬能力を高めること自体がアンチ・ドーピングの世界では問題視されている。

 科学の力と自然の力。競技力を高めたいのはだれもが同じだ。そこでアスリートは何に頼るか、何を信じるか−−。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件