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vol.411-1(2008年8月1日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
タイブレークと野球の醍醐味

 北京五輪の野球で、延長十一回以降は無死一、二塁から攻撃を始める「タイブレーク方式」を導入すると国際野球連盟(IBAF)が発表し、物議を醸している。全日本アマチュア野球連盟は導入の再考を求める抗議文を送ったが、IBAFに方針を変える意思はなく、今五輪から新ルールが適用されることは確実だ。

 ほどけない結び目=均衡状態(tie)を断ち切る(break)という意味を持ち、テニスやソフトボールですでに導入されている。いわば早く決着をつけるためのルールだ。

 ところで、なぜ日本はこのルール変更に反対したのか。その主張は@五輪開幕の2週間前にルール変更するのはおかしいA事前に何の相談もない・・・など。ルール変更の時期や決め方に異議を唱えているのだが、ルールの内容に言及していないから、なぜ抗議しているのかが伝わってこない。しかし、このタイブレークというルールを通じ、野球のあるべき姿を考えてみる価値はある。

 IBAFのハービー・シラー会長は、連盟の公式ホームページで新ルール導入の理由をこのように述べている。

 「2016年に五輪競技に戻ることができなければ、野球にとっては北京五輪が最後の五輪となるかも知れない」と前置きした上で、「我々は国際オリンピック委員会に対し、野球が他のスポーツと同様にすばらしいというだけでなく、テレビ放映などの面から野球が管理しやすいスポーツであることを明示しなければならない」と説明する。12年ロンドン五輪の除外が決まっているが、五輪競技として16年に復活するには、テレビ向けに変革していく必要があるという主張だ。

 バレーボールがラリーポイント制を導入し、柔道もカラー柔道着を採用した。テレビの都合に合わせて競技を変えていくことが国際競技連盟に突きつけられた課題なのかも知れない。しかし、次のようなシラー会長のコメントを読むと、そこまでして五輪に残る必要があるのか、とさえ映る。

 「野球というスポーツのユニークな面の一つは時間制限のないことだ。延長戦は選手たちやファンに最も刺激的な結果をもたらすことができる。しかし、五輪プログラムの流れにおいて、そのような状況では困難が生じる。試合が遅れるとスケジュールや運営に支障をきたし、警備、輸送、ドーピング検査、放送、エンターテインメントに重大な影響を与える」

 時間制限なしの延長戦が、野球の魅力であるとシラー会長は言いつつ、そのままでは五輪競技に残ることはできないと強調する。日本では米国のように延長戦が無制限というわけではないが、いつ終わるかも知れない戦いをハラハラしながら見守った経験は、野球ファンならずとも持っているはずだ。

 選手たちの鼓動が伝わってくるような息詰まる緊張感、一瞬のミスで流れが変わる試合展開。そして、いつまでも続いてほしい、どちらにも負けてほしくないという不思議な感覚。そんな醍醐味を削ってまでテレビに合わせろというIBAFの改革が、実を結ぶとは到底思えない。

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