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vol.425-1(2008年11月17日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
特待制度は追跡調査が不可欠だ

 日本高校野球連盟が、来年度入試で野球を理由に特待生を採用する学校を発表し、報告が遅れている関東地区の7県を除く40都道府県の330校の校名が明らかにされた。募集要項などの確認作業が行われた上で校名が公表されているが、事前の調査で採用予定と答えた学校は433校。問題となった昨年の376校を上回ることは確実だ。

 昨年の有識者会議の議論を経て、日本高野連は3年間の暫定措置として特待制度を容認し、「各学年5名以下が望ましい」とするガイドラインを打ち出した。これで「特待生は公認された」と解釈した私学も多かったのだろう。昨年より増加することは予想された結果だった。

 強豪校の状況を見た。前回は名前が挙がっていなかった大阪桐蔭や明徳義塾が入っている。プロ野球・西武との金銭授受からこの問題のきっかけとなった専大北上も特待制度を継続する。青森山田や光星学院、仙台育英や東北、帝京、常葉菊川、中京大中京、龍谷大平安、沖縄尚学など甲子園常連校は軒並み採用。一方、PL学園や天理、智弁学園、智弁和歌山、広陵などは今回もリストには入っておらず、特待生を採用する予定はないようだ。それぞれに判断が分かれる。

 有識者会議では「透明性の確保」を求める声が多かった。だが、インターネットで各校のホームページ(HP)を見る限り、野球による特待生の採用を明確に表示している学校はさほど多くはない。

 常葉菊川は「硬式野球部の特待生は5名以内とし、運動技能に優れ、かつ品行方正で本校で求める学力を具えていることとします。なお、中学校長の推薦書を提出していただきます」と記している。しかし、ここまで明示している学校は少数派。学校説明会で配布する資料には書いているのかも知れないが、透明性を高めるのであれば、だれもが閲覧できるHPに示すべきではないか。

 そして、最大の課題は今後の追跡調査にかかってくる。特待生として入学した生徒が、どんな生活を送るのか。その実態把握が何よりも不可欠だ。

 特待生として入学しても、中心選手となって活躍する保証はどこにもない。ケガによって退部に追い込まれたり、退学していった過去の例は枚挙に暇がない。特待生でありながら結果が出せず、精神的な重圧を受けて不登校となるケースもあると聞く。また、非特待生部員との関係はどうなっているのか。学力的に授業についていっているのか。学校の中で特別視され、孤立していないか。調査すべき項目は山ほどある。

 これまでは、何人がどのような形で特待生として採用され、どんな学校生活を送っているのかは見えてこなかった。その結果、学業との両立や校内での生活は軽視され、野球だけをしていればよいといった偏った風潮がはびこった点は否めない。今はまだ暫定期間であり、正式な制度を導入するのは3年後の 2012年度入試からになる。この機会だからこそ、形式的ではなく、きめ細かい調査を期待したい。時間は十分ある。

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