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vol.430-2(2008年12月26日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
スポーツ界の「自立度」が問われる

 北海道でのアイスホッケー・アジアリーグの試合会場で、廃部が決まった西武の存続を求める署名活動のニュースがテレビを通じて伝わってきた。その映像を見ながら、今から10年前にも同じような光景を取材したことを思い出す。

 98年3月、東京・東伏見のアイスアリーナでは廃部が決まった古河電工アイスホッケー部の存続を求める署名に列ができていた。チームの歴史や伝統が考慮されることなく廃止が決まり、選手たちは悔しさと不安に声を震わせていた。しかし、廃部が撤回されることはなかった。今、西武に起きている状況は当時の古河電工の二重写しに見える。

 古河電工が日光アイスバックスに変わったように、西武も新しい受け入れ先を探している。他のスポーツでも同様の光景が繰り返されてきた。しかし、そうなる以前に何らかの手を打てないものか。バブル経済の崩壊以降、企業スポーツは再び襲ってくる不況に備え、どんな「防衛策」を講じてきたのか。

 クラブ化したチームは、地域との結びつきを強め、複数の企業から支援を得るなど新しいスタイルを模索してきた。しかし、バブル崩壊時に生き残った企業チームは明確な方向性を打ち出せず、多くのチームが親企業に依存する体質から抜け出せなかった。

 地域密着を進めるには長い時間がかかる。ナショナルトレーニングセンターの活用など国策強化にシフトすべきとの意見もあるが、救えるのは一部のトップ選手に過ぎない。

 今回の世界同時不況はバブル崩壊時よりも影響が大きいと見られ、各チームの努力だけでこの「大津波」をしのぐは困難だろう。ここは競技団体が積極的に対策を打ち出す必要があるのではないか。

 短期的には企業チームの休廃部を未然に防いだり、解散させられたチームや選手の受け入れを考える具体策が急務だ。大会やリーグ戦のコスト削減や、リーグ戦収入の各チームへの分配方式も課題になってくる。チームが休廃部となった場合に備え、地方自治体や大学とも連携して競技環境を確保していかなければならない。行き場を失った契約社員選手へのサポートも求められる。

 中長期的には企業スポーツのあり方や企業内における位置づけを、もう一度見直す時期に来ている。一般業務にはつかず、スポーツに専念する傾向が年々強まって、選手の契約社員化も当然の流れとなった。個人競技ではスポーツ部を所有するのではなく、一部のトップ選手のみをスポンサーとして金銭支援する方式が多くなってきた。その結果、企業は都合次第でスポーツを簡単に切れるようになった。

 年が明ければ、年度末の企業決算に向けて再び休廃部の動きが表面化してくるに違いない。スポーツ界が競技基盤を確保するためにどんな知恵を絞り、どう行動するか。スポーツ界の「自立度」が試される2009年になる。

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