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vol.437-2(2008年2月20日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
法的問題が残る政府の「財政保証」

 2016年の五輪招致レースは、東京、シカゴ、マドリード、リオデジャネイロの4都市が立候補ファイル(開催計画書)を国際オリンピック委員会 (IOC)に提出し、一つの節目を終えた。4月にはIOCの評価委員会が各都市を視察し、10月2日の総会で開催地が決定するが、今回、立候補ファイル提出に至る経緯の中で見過ごせない動きもある。日本政府が発行した財政保証書だ。

 東京の招致委員会は、国会の招致決議を経て政府の財政保証書を立候補ファイルに盛り込む予定だった。財政保証書とは、組織委員会の財政に赤字が出た場合、不足分を補てんするという確約書。ところが、招致決議を採択する国会の衆院本会議召集に民主党が応じず、ファイル提出には間に合わなかった。

 7月に都議選を控える民主党の都議団は開催計画の内容に反対し、党本部に決議には慎重に対応するよう求めていた。民主党の国会議員は自民、公明両党とともに「2016年オリンピック日本招致推進議員連盟」(会長・森喜朗元首相)に名を連ねている。しかし、政局の混乱から決議には至らなかった。

 その背景を関係者に取材すると、次のような声が上がってきた。@次期衆院選で民主党は五輪に反対する社民党と協力態勢を敷くA民主党は前回都知事選で石原慎太郎知事の対立候補となった浅野史郎・元宮城県知事を支援し、今も溝があるB参院議員宿舎の建て替えで、民主党と東京都が対立しているC今後、政権奪取の可能性もある民主党は、五輪の赤字補てんに難色を示している−−などだ。

 そして、最終的に招致委は決議なしで政府の財政保証書をファイルに添付して提出した。麻生太郎首相のサインが入っていたというが、どのような内容だったのか、その文言は今も公表されないままだ。

 日本国憲法第85条には「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする」とある。赤字の補てんを約束する財政保証書ながら、国会の承認は得ていない。この憲法条文に抵触する疑いはないのか。
 複数の招致委幹部は「あの保証書は政府の決意のようなもの。法的な文書ではない」と言う。決議と議決は違う、と語る人もいる。確かに議会用語や法律用語ではそうかも知れない。しかし、赤字を何で補てんするかといえば、紛れもなく国民の税金である。その約束をする文書を議会に諮らず、しかも内容非公開のままIOCに持ち込んだ。

 私はこの問題を毎日新聞の紙面で記事化したが、他メディアはさほど取り上げておらず、世間の注目度も低い。しかし、肥大化した五輪が政治との関係を切り離せなくなった今、民意を問う上でも大いに議論されるべきテーマだ。

 国会議員も「画竜点睛」を欠く今回の政府保証が、このままでいいとは思っていない様子だ。招致推進議連は再び国会決議を採択しようと呼び掛けている。政治の動きにほんろうされる五輪招致。まだ一波乱あるのだろうか。

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