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vol.438-2(2008年2月27日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
企業責任を問う声がついに出てきた

 社会人野球を統括する日本野球連盟の松田昌士会長が、25日に静岡・熱海で行われた評議員会の席上、今季限りで休部を決めた日産自動車を厳しく非難したという。

 各紙の報道によると、松田会長は「簡単に(野球部の活動を)やめるのはもってのほか」(毎日新聞)、「経営者は社員の心を捨ててはならない」(時事通信)、「野球部を姥捨て山に捨てた」(読売新聞)、などと日産をやり玉に挙げ、強い口調で苦言を呈したそうだ。旧国鉄、JRで経営側にいた人でもあり、経営者の立場でも企業スポーツの問題を考えるのだろう。それにしても、このように企業の姿勢を糾弾する動きは、今までのスポーツ界にはほとんど見られなかった。

 日本野球連盟によると、「会社登録」する企業チームの数は2月2日現在で84チーム。バブル崩壊が始まった頃の1993年には148チームあったが、そこから60チーム以上が姿を消したのである。企業スポーツ全盛時代の1963年の237チームと比較すれば、その数は今や約3分の1。不況による大打撃を被ってきた社会人野球の歴史を振り返れば、今回も「日産ショック」に続く連鎖反応に危機感を強めるのは当然だ。

 バブル崩壊後の企業スポーツに関する議論といえば、チームが経営的に自立するにはどうすればいいか、といったテーマが先行していた。地域密着を進めて多くのスポンサーを募り、一企業に依存しない体質を作る。社会貢献事業も行ってスポーツ部の存在価値を高める。そんな話が中心だった。

 景気が上向きの頃、企業は「メセナ」や「社会貢献」といってスポーツ部を支援した。ところが、バブル崩壊時と同様、景気が落ち込むと企業はスポーツ部に何の相談もなく活動の打ち切りを決める。

 今週もテニスで男子日本リーグ3連覇のミキプルーンや女子日本リーグの荏原が休部を決め、実業団女子駅伝で3度の優勝を誇る陸上女子のOKIも廃部を発表した。ミキプルーンの選手はリーグ戦優勝を決めた当日の祝勝会の場で休部を告げられたという。こんなバカにした話はない。しかし、活動中止を決める企業側に対し、スポーツ側には抵抗する手段はもちろん、抗議を訴える発想も乏しいように思える。

 スポーツ部の活動費は、競技によってばらつきはあるとはいえ、年間数億円に過ぎず、大企業にとって大きな額とはいえないだろう。今、進められている休廃部は、コスト削減というよりもむしろ、経営リストラの「象徴」という意味合いが強いのではないか。

 スポーツは企業にあらゆる形で活力をもたらし、企業もスポーツの土台を支えてきた。スポーツが企業と社会の接点で潤滑油の役割を果たしてきた点も強調されていい。その関係を一方的に打ち切ることに何の責任もないのか。スポーツ界が主張しなければ、これからも状況は変わらない。企業スポーツや競技団体に携わる人たちが、もっと声を上げなければならない。

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