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vol.439-2(2008年3月6日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
「カネが鍵を握る」ラグビーW杯招致

 ラグビーの2015、19年のワールドカップ(W杯)開催地が7月28日の国際ラグビー機構(IRB)の理事会で決まる。日本は11年のW杯招致でニュージーランドに惜敗し、今回は再挑戦の場。しかし、前回とは招致を取り巻く事情が異なり、世界を覆う経済危機の中でシビアな現実が立ちはだかっている。

 日本以外の立候補国・地域は以下のような顔ぶれだ。【15年大会】オーストラリア、イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イタリア、南アフリカ【19年大会】オーストラリア、アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イタリア、南アフリカ(ロシアは撤退表明)

 11年の招致と同様、日本はアジアでの初開催がラグビーの世界的発展につながると主張している。1987年から始まった4年に1回のラグビーW杯は、これまで欧州と南半球でしか開かれたことがない。そういう経緯を考えると、アジアでの初開催は大きなアピールポイントではある。しかし、2日に開かれた記者会見で、日本協会の真下昇専務理事は「財政的条件が最大のキーポイントになる。どうやって信用される財政保証を取り付けられるかだ」と明言した。

 IRBは立候補している国・地域にトーナメント・フィー(大会拠出金)の保証を求めている。15年は8000万ポンド(約111億円)、19 年は9600万ポンド(約133億円)だという。当初はこれよりも多額の拠出金を求めていたが、日本やイングランド、オーストラリアがこれに難色を示し、IRBと交渉の末に減額した。

 2016年の東京五輪招致では、日本政府が組織委員会の赤字の補てんを約束する財政保証書を発行し、国際オリンピック委員会(IOC)に立候補ファイルとともに提出された。

 しかし、ラグビーW杯に関しては、日本協会の森喜朗会長が「この情勢で政府の約束(財政保証)を取ることは難しい。1競技の国際大会を財政保証するとなれば、たとえば、バスケットだってバドミントンだって、ということになる。世界的な金融危機でイギリスも政府保証はしていない。そんなことを宣言できる国はないでしょう」と語るほど困難な情勢だ。

 前回のW杯招致でも日本は政府支援がなかったことがマイナス要因と指摘された。しかし、今回も景気が急減に悪化する中、政府の支援など求められる状況にはないようだ。

 日本協会は金融機関などに支援を求めているというが、日本人にはなじみの薄いラグビーW杯に対し、民間企業がどこまで財政保証してくれるかどうか。100億円以上を民間資金で集めるのは容易な話ではない。日本は競技の一部を香港やシンガポール、韓国、中国などでも開きたいとし、中でも香港が熱心だという。そうしたアジア各国のマネーも当てにしなければならないのだ。

 日本のスポーツ界は、16年夏季五輪を筆頭に、18年のサッカーW杯、そしてラグビーW杯と次々にスポーツイベントの招致に乗り出している。世界的経済危機の中、今や国際大会の招致は「立候補するなら、前もって貯金通帳を見せろ。残額が少なければ、借金する時の担保を見せろ」が当然の風潮になりつつあるようだ。しかし、カネさえかき集めればいいというものでもない。国際大会を開催する意義や理念をしっかりと語らなければ、ファンの支持は得られず、結果的にカネも集まらなくなる。

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