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vol.446-1(2009年5月1日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
日体大事件が問い掛ける「部活動」

 日体大の陸上部員が合宿所で大麻の栽培、使用に関わっていた事件で関東学生陸上競技連盟が日体大に箱根駅伝のシード権はく奪などの処分を科し、処分内容に対して日体大が反論した問題は、最終的に日体大が処分に応じることで決着した。

 大学スポーツ界への大麻汚染の広がりをまたしても示す形となった今回の事件ではあるが、何よりも興味深いのは、大学が連盟の処分に異を唱えたということである。

 関東学連が決定した処分は、箱根駅伝のシード権はく奪に加え、6月末までの関東学連主催大会への出場停止などだった。

 これに対し、日体大側は、問題の学生を退学処分にしているのに、約400人の部員に連帯責任を負わせるのは理解できないと反発し、落合卓四郎学長名での反論文を関東学連に提出した。陸上部は種目ごとの8ブロックに分かれており、この学生は男子跳躍(棒高跳び及び幅、三段跳び)のブロックに所属していた。大学はこのブロックを無期限の活動停止にもした。それなのに、他のブロックにも処分が及ぶのは納得できないという主張だった。

 しかし、関東学連は「合宿所での問題は一個人や専門種目、ブロック単位にとどまらない。部全体として深く受け止めていただく問題」と回答し、日体大も最後は処分に応じた。これが一連の流れだ。

 体育大学という事情もあるが、部員400人というのは想像もできないような大所帯である。大学側はクラブ活動も授業の一環と位置付け、単位に認定しているという。部活動の停止は単位取得にも響くというわけだ。

 運動部活動の良さは、スポーツを通じ、わずかな青春時代の濃密な時間を仲間とともに過ごすことにある。中学生でも高校生でも変わりない。日体大はその素晴らしさを学生や生徒に伝えるべき教員や指導者を養成している大学なのだが、その現場で、「運動部」の位置付けが揺らいでいる。

 膨大な数の部員に一体感を持たせるのは、現実的には難しいだろう。だが、部活動といえば、本来はレギュラーも補欠も「同じ釜のメシを食った仲」であるはずだ。同じ部員として汗を流した経験と人間関係は、社会人になっても生きる。だが、そういう価値観が後退し始めているのではないか。「ブロック」の違いを大学が強調したように、日体大陸上部では跳躍種目と駅伝種目は別のスポーツと考えているのだろうか。野球なら投手と外野手は別、サッカーならFWとGKは別、水泳なら平泳ぎとバタフライは別というようなものだ。

 さらに、部活動が単位に認められるというのにも驚く。体育大学の特殊事情か思ったら、別の大学のスポーツ系学部でもそのようなケースがあると聞いた。本来は課外活動である部活動が授業と認定されるなら、スポーツだけしていればいい、という学生が量産されていくだろう。そんな環境で育った指導者が次代のスポーツ界を正しい方向に導けるとは到底思えない。

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