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vol.450-2(2009年5月29日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
「国力に見合った成績」求める教育再生懇

 政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾前塾長)がまとめた第4次報告が発表され、国がスポーツにどう関与していくべきか、その概要が示された。

 現在の日本スポーツの諸問題をほぼ網羅する内容ではある。だが、言葉は悪いが「総花的」ともいえるこの報告書の中から、国家が目指そうとしているスポーツ界の真の姿が透けて見えてくる。

 「『スポーツ立国』ニッポン」と題する報告書は、体力づくり運動や学校での体育授業・部活動の充実、障害者のスポーツ活動の振興、総合型地域スポーツクラブの育成など身近なスポーツ環境の整備、企業スポーツへの支援、トップアスリートの育成などを挙げて「多岐にわたるスポーツ振興施策を推進していくことが必要である」と謳う。そして、次のような問題点を指摘している。

 @子供たちの体力低下が続いているA少子化による学校の小規模化や教員の高齢化、指導者不足で多様な部活動が困難になっているB総合型地域スポーツクラブは財政的にぜい弱なところが多く、自主財源で活発な活動を行えるクラブは多くないC企業スポーツの活動は景気の影響に大きく左右され、多くのチームが休廃部を余儀なくされている−−。

 これらは兼ねてから指摘されてきた問題であり、異論を挟む余地はないだろう。しかし、次に続く一文に、国家のスポーツに対する強烈な姿勢が表れている。

 「オリンピックにおいても、我が国の成績は、国力に見合ったものからはほど遠く、今のままでは、『スポーツ立国』ニッポンの実現は困難である」

 国力とは何なのか。国力に見合った成績とは何なのか。これまでの審議を懇談会の公式ホームページで調べてみると、これまた、恐ろしい表現が出てきた。

 「とりわけ、国威を発揚し、青少年に夢を与えるという観点から、あるいはスポーツ人口の裾野を広げるという観点から、オリンピックをはじめ国際大会で活躍できるトップアスリートを育成することの意義は極めて大きい」

 今、教育再生懇と並行して自民党のスポーツ立国調査会や超党派のスポーツ議員連盟でも同様の議論が続いている。「スポーツ庁」を創設し、 1961年に制定された「スポーツ振興法」を全面改正して「スポーツ基本法」という新法を作ろうという話だ。確かにスポーツを取り巻く環境は60年代とは大きく変わっている。しかし、日本のスポーツが目指す方向は「国力に見合った成績」を挙げることなのか。トップアスリートの環境を整えた先にあるのは、国力を誇示することなのか。日本スポーツは恐ろしい時代に突入している。そしてもっと恐ろしいのは、スポーツ界がそれに目をつむっていることである。

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