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vol.457-2(2009年7月31日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
大きな荷物を背負った日本ラグビー界

 2019年のラグビー・ワールドカップの開催地に日本が選ばれた。15年は安定収入が見込める伝統国のイングランド、19年はラグビーの国際的発展が期待できる日本、という推薦案をW杯運営組織「ラグビー・ワールドカップ・リミテッド(RWCL)」が国際ラグビー機構(IRB)に提示。これをIRB理事会が賛成16、反対10で可決したというものだ。アジアでの初開催にはもちろん意義がある。しかし、開催にかかる財政内容を見る限り、日本は大きな荷物を背負ったと言わざるを得ない。

 IRBは、19年大会に関し、9600万ポンド(約153億6000万円)の開催保証金を求めている。日本協会ではこれを含め、大会総経費はおよそ300億円はかかるとみているという。テレビ放映権料とスポンサー収入はIRBに直接入る構造になっているため、日本はその300億円を主にチケット収入から捻出しなければならない。

 本当にそんな巨額資金を集められるのか、という素朴な疑問が沸いてくる。日本協会では1試合平均4万3000人もの観客を集める必要があると試算しているようだが、日本のラグビー人口やファン層を考えても、極めて困難な数字であることは間違いない。

 「今回のW杯招致はロビー活動よりも、カネだ。いかに財政的な保証をできるかが焦点になる」という話を日本協会幹部から聞いたことがある。実際、開催地決定後の記者会見でも、IRBのベルナール・ラパセ会長は「W杯には商業的な成功が必要だ。イングランドと日本での開催は、W杯に最大限の収益をもたらすだろう」と露骨なほどにビジネスを強調している。

 87年の第1回大会から南半球と北半球の伝統国で4年ごとに交互開催してきたW杯である。これを別の地域に広げたい、というIRBの意志は理解できる。サッカーのW杯でも94年アメリカ大会や02年日韓大会にはそうした意味合いがあった。五輪でも昨年の北京大会は、新たな市場開拓の可能性を視野に入れたものだったといっていい。

 とはいえ、300億円もの資金が必要という大会を今後も世界各地で開催できるわけはない。中小規模の国のラグビー協会にそんな資金も開催能力もないだろう。IRBが世界的な普及を重視しているのなら、もっと財政を抑制して開催できるノウハウを提示すべきだった。

 日本はこの資金をこれからの10年でどうやってかき集めるのだろう。金融機関から融資を受けられても返済しなければならない。多額の借金を背負えば、競技団体としての存続さえ危ぶまれる。

 元首相である日本協会の森喜朗会長でさえ「政府による財政保証は難しい。1競技の国際大会を政府が財政保証すれば、他の競技にも必要、ということになる」と語っていた。政府に頼ることもできないのである。

 ラグビーをはじめ、多くの競技団体が政界へのパイプを重視して政治家を競技団体の役員に迎え入れている。しかし、今回の政局の混乱が示すように、政治家にすり寄っていれば、スポーツ界に多額の資金が下りてくるという時代ではない。もし今度の総選挙で政権交代となった場合、スポーツ界はどんな顔をするのだろうか。競技団体は自分の足でしっかりと立ち、自分の財布で運営できる体質を求められる。巨額の財政負担という難題を抱える今回のラグビーW杯は、そんな教訓を示すことになりはしないか

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