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vol.459-2(2009年8月25日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
新潟野球の底辺が動いている

ついにここまで来たか、という思いで夏の甲子園決勝を観戦した。新潟県代表・日本文理の戦いである。全国の都道府県で最も勝ち星の少ない新潟の野球がどうやってレベルアップしてきたのか。そんな話を昨年取材したばかりだったからだ。

 Kボールという軟式球と硬式球の中間のようなボールがある。軟式のようなゴム素材ながら、重さは硬式球並み。実は中学年代でじわりと広がっている。そのKボールの大会で新潟のチームが全国トップレベルの好成績を収めており、それに興味を持った。チームの名称は「新潟アルビレックスKBユース」。あのアルビレックスが中学野球にまで乗り出してきたのか、と思って取材を申し込んだ。

 現地に行くと、実情は少し違っていた。チームは新潟県内の中学軟式野球部に所属する選手が、最後の夏の大会を終えた後、Kボールの選抜チームに選ばれる。06年までは「新潟クラブ」という名前だったが、北信越に独立リーグのBCリーグが出来、地元には「新潟アルビレックス」というプロ球団が発足した。そこで、新潟クラブの運営に携わっていた中学校の教員たちが、支援を要請。チーム名を「新潟アルビレックス」とすることで遠征バスを貸してもらったり、帽子を寄付してもらった。そして、07年には全国大会で準優勝を飾っている。

 プロ球団の支援があるかどうかは別にしても、新潟で中学年代の環境が充実し始めていることは確かだ。Kボールは一つの例かも知れないが、中学硬式野球のリトルシニアも、最近はレベルが上がっていると聞く。また、同じく硬式のヤングリーグのチームも発足しているという。

 Kボールの取材をした時、中学校体育連盟の役員を務める教員が「これまでは優秀な選手の多くが県外へ流れていた。しかし、これからはどう『地元愛』を育てるかです」と話していたのを思い出す。

 ここ数年、高校野球では地方チームの活躍が目を引く。地域的に見ると、北海道、沖縄がその代表格だ。夏の選手権で連覇を果たした駒大苫小牧、春の選抜で優勝した沖縄尚学の活躍は、いずれも中学年代の環境に大きく関係していた。北海道では休廃部で社会人野球をやめた選手が中学硬式野球の指導にあたっていたし、沖縄ではプロ野球・キャンプのために整備された各地の球場が地元の子供たちに大きな影響を与えていた。これに加えていえば、今大会で左腕・菊池雄星が注目を集めた花巻東の岩手でも、底辺層に何らかの変化が起きているのではないか。

 特待制度の問題の後、日本高野連が寮費免除の禁止を明確に打ち出したこともあって、最近は野球留学も沈静化しつつあるように見える。新潟の先生が語っていたように、これからは「地元愛」をどう植え付けていくかという時代になっていくだろう。

 朝日新聞も毎日新聞(東京本社発行紙面)も25日付朝刊社会面のトップを飾ったのは、優勝した中京大中京ではなく、日本文理の記事だった。伊藤直輝投手と若林尚希捕手は山形県境に近い人口6800人の山村、新潟県関川村で育ち、小学校4年で入ったスポーツ少年団の頃から9年間バッテリーを組んできたという話だ。野球留学に相反する「地元愛」が、地方では徐々に根付いているのかも知れない。

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