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vol.483-2(2010年3月12日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

全く残念な福原愛の早大中退

 卓球の福原愛が早大を中退することになったという。トップアスリート入試制度で早大に入学した福原だが、海外ツアーの転戦や中国スーパーリーグ参戦のために、大学の授業に出席するのが困難な状況が続いていたそうだ。トップアスリートという特別待遇で入った学生である。当然、そのような事態は入る前から想定されたはずで、何らかの手の打ちようがなかったのだろうか。
 06年度からトップアスリート入試を始めた早大スポーツ科学部のホームページにはこのように書かれている。

 「スポーツ界に貢献する自信と意欲を持った合格者が、入学後本学部で習得した知識技能を生かし、日本のスポーツ界をリードしてくれることを期待するとともに、近い将来、世界の大舞台で活躍するトップアスリートとして成長してくれることを願っています」

 この文章に謳われているように、トップアスリートという別枠で採用されるのだから、合格した選手たちは、大学で知識や教養を高め、これをトップアスリートとして社会に還元しなければならない。そのような責務を担う若者たちだ。そして、大学はこれをサポートするためにいろんな工夫をしなければならない。

 授業に出られなくても、勉強するための題材を与え、レポートを提出させることはできる。講義内容を撮影し、DVDで送ってあげることもできるだろう。シーズンオフに集中講義することも可能だったに違いない。アメリカの大学を取材した時、スポーツ選手対象の奨学金制度で入学した有能なアスリートには、大学が家庭教師をつけさせる、という話を聞いたこともある。さまざまな方法で勉強を継続できるはずなのに、そのような人材育成の環境が、選手の側から放棄されたことは残念でならない。

 早大だけでなく、近年このようなスポーツ推薦入試を導入する大学が急速に増えてきた。自分の大学の学生が国際舞台で活躍すれば、大学に活力を生む。だから特別待遇でも合格させる、という論理だ。今回のバンクーバー五輪なら、フィギュアスケートの代表選手を輩出した中京大や関大がいい例だ。

 だが、「大学に活力をもたらす」効果を選手に期待するだけでは困る。それでは大学の広告塔に過ぎない。大学はこのような選手たちだからこそ、しっかりとした教育をしてほしいと思う。

 福原の例にもつながることとして、ゴルフの石川遼も挙げていいだろう。石川は東京・杉並学院高をこのほど卒業した。石川ほどの知的な選手なら、大学に進みながらプロ生活を送ることも可能だったと思える。しかし、石川はその道を選ばず、ゴルフに専念することを決めた。おそらく、今の大学に魅力を感じず、入学したとしても「広告塔」として利用されるだけと感じていたのではないか。

 これからも、福原や石川のようなアスリートがどんどん現れてくるだろう。今やトップアスリートの多くが世界を転戦する仕組みの中で生きている。一般学生のように学校に通える時間はほとんどない。だが、学校側のシステム次第で、そのような選手の能力を伸ばす教育ができるに違いない。教育機関は、社会に貢献できる若者を育てていくのが本道だ。その原点に立ち返ってほしい。

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