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vol.490-1(2010年5月10日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

燃え上がるギリシャからの火

 アテネから流れてくる映像を見ていると、6年前の五輪の光景が浮かび上がってくる。当時も無政府主義者が市内の銀行を襲撃したり、市民のデモもあったが、地元の人たちは「よくあることなんですよ」とさほど気には留めていなかった。しかし、今回は死者まで出る騒ぎだ。ギリシャだけでなく、ユーロ経済圏が崩壊し始めている危機が如実に伝わってくる。

 経済評論家の解説を読んでいると、今回の財政危機は、ユーロという通貨の信用に甘えて借金を重ねた政府の"放漫経営"が原因といわれている。ドラクマからユーロへという、通貨の変更に加え、五輪の開催で国際的信用を得たとギリシャは勘違いしたに違いない。だが、実体経済は違ったのだ。

 当時の施設やインフラ整備、過剰とも思えた警備を思い返せば、五輪の財政負担もじわりと影響を与えていたのかも知れない。ただし、問題となっているのは、そんなレベルの財政危機ではないのだろう。借金に借金を重ね、国家の基盤だけでなく、世界を揺るがすような不況の震源地となろうとしているのだ。
 さて、スポーツ界への影響も国内外で心配される。

 欧州経済が窮地に追い込まれれば、まずはサッカー界が打撃を受けるに違いない。欧州チャンピオンズリーグを筆頭に各国のサッカー界は欧州で動くマネーをバックに巨大ビジネスへと変貌を遂げてきた。スポンサーやテレビを通じ、安定したユーロ圏の資金がサッカー界のビジネス化を後押ししてきた。

 しかし、世界のスポーツ界を動かした国際的スポーツマネジメント会社「ISL」(本社・スイス)が2002年日韓ワールドカップ(W杯)を前に経営破たんに陥ったように、スポーツ界のバブル崩壊はすでに始まっており、「警戒警報」が発せられていたといえる。

 ユーロ圏だけではない。英国の財政危機もすでに表面化しており、2年後のロンドン五輪への悪影響が叫ばれている。英国BBC放送のウェブサイトを見ると、「ロンドン五輪はギリシャから学ぶべきだ」との投書も寄せられていた。

 2009年のリーマンショックで打撃を受けたのは、米国経済だけではなかった。その余波は日本にまで及び、バブル崩壊の第2波がスポーツ界を襲った。そして今、欧州経済までもが地盤をぐらつかせている。このままユーロ圏の国々が苦しい財政をしいられれば、「第3波」として再び国内のスポーツ大会や企業スポーツに影響が出てくるのは避けがたい。また、五輪やサッカーW杯の招致活動も資金集めに難題山積となるだろう。

 先月89歳で死去した国際オリンピック委員会のフアン・アントニオ・サマランチ前会長は五輪を「カネのなる木に変えた」とまで言われた。その商法は、サッカーをはじめ数々のスポーツへと拡大し、それが20世紀後半のスポーツ界の流れを作った。

 商業路線をまい進したスポーツ界はどこに可能性を求めていくのか。欧米経済にブレーキがかかり、次は中国、中東、インドなどアジア諸国の経済に目を向けていくのだろうか。もっと先をにらんでアフリカへの市場開拓へと乗り出すのだろうか。

 ギリシャから火の手が上がったというのは暗示的でもある。ギリシャの火といえば、五輪の聖火であるはずだ。しかし、その燃えさかる火は、商業主義に走りすぎた世界のスポーツ界にも警鐘を発しているように思えてならない。

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