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vol.496-1(2010年7月9日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

権力介入で「自力航行」できなくなった相撲界

 大相撲の野球賭博問題に同情の余地はない。これまで重ねてきた不祥事の数々を考えてみても、いかに相撲界が腐敗していたかが分かる。大麻、暴行死、維持員席、そして暴力団との長い付き合い。言い訳はできない。ただし、今回の一連の騒動で見逃せないポイントもある。国家権力の介入が以前にも増して強まっている点だ。

 日本相撲協会に外部理事が入ってきたのは、時津風部屋の力士暴行事件で当時の時津風親方(元小結・双津竜)らが逮捕された後の2008年9月のことで、監督官庁である文部科学省からの指導によるものだった。今回の賭博問題では、その外部理事らを中心に特別調査委員会が構成され、謹慎となった武蔵川理事長(元横綱・三重ノ海)に代わって、村山弘義・元東京高検検事長が理事長代行の座に就いた。また、協会の改革を議論する「ガバナンスの整備に関する独立委員会」も外部の有識者で発足させることが決まった。

 理事長代行を外部の人が務めることには相撲界の強い抵抗があり、放駒親方(元大関・魁傑)を推す声が出ていた。しかし、その動きを報道で知った外部理事が理事会で激怒して親方衆を黙らせたという。

 相撲界が自浄能力を失っているのは分かる。だが、「外部」の人が最後は「内部」のトップに就任するという異常事態を見ると、ここまで国家権力が介入するのはやりすぎではないか、と私は思う。というのも、ここ数年、スポーツ界に対する文科省の介入度合いが非常に頻繁になっていると感じるからだ。

 高校野球の特待制度問題では、日本高野連の脇村春夫会長(当時)らが文科省に呼ばれ、文科省の指導を仰ぎながら、外部の人たちによる有識者会議を設置して問題の解決を図った経緯がある。Jリーグ川崎の我那覇和樹が受けた静脈注射がドーピングかどうか問題となった時も、文科省は、仲裁申し立てに応じないJリーグを呼んで早期解決を指導した。テコンドーやバスケットボール、クレー射撃など競技団体の内紛があるたびに文科省が役員を呼びつけている。

 どの競技団体も今、政府が進める公益法人制度改革の中で「公益」の2文字を得ようと必死だ。これまでは財団法人や社団法人というだけで公益性があると認められてきたが、制度改革(移行期間は08年12月から5年以内)により、公益性があると認められれば「公益財団法人」や「公益社団法人」、そうでない場合は「一般財団法人」や「一般社団法人」と分けられる。その違いは、簡単にいって税金の支払いにある。公益法人なら、法人税や所得税などあらゆる税の優遇措置が受けられるのだ。それらは競技団体の財政に直結する。だが、公益性の審査は厳しく、マイナー競技の団体からは「一般法人でもいいのではないか」という声も聞かれるほどだ。

 組織が解体されていく日本相撲協会を見ていると、公益性を理由に"お上"に押さえつけられたという印象は拭えない。こうなる前に、なぜ自らの力で改革に着手できなかったのか。スポーツ界のことはスポーツ界で解決するという「自主の精神」を失えば、他の競技団体もいずれは相撲界のように、「自力航行」できなくなるだろう。スポーツ界の自治と国家権力の関係を考えさせられる問題だ。

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