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vol.534-1(2011年7月20日発行)
賀茂 美則 /スポーツライター(ルイジアナ発)
震災からの復興とスポーツ

 なでしこジャパンがワールドカップ初優勝という偉業を成し遂げた。世界ランク4位ながら、日本の優勝を予想していたファンが何人いたことだろう。予選のメキシコ戦、4-0の圧勝で波に乗り、地元ドイツを延長戦で、スウェーデンは3-1で逆転ながら圧倒した末の決勝進出。
 
 決勝もただ勝っただけではない。その勝ち方が素晴らしい。これまで24試合勝てなかったアメリカを相手に、1点を先行されながら追いつき、延長前半にも勝ち越されながら、延長後半に得点王でMVPに選ばれた澤穂希の劇的なシュートで追いつき、PK戦では圧勝した。 
 
 優勝後の澤のコメントにもあったように、格上のアメリカを相手に「決して諦めなかった」なでしこの粘りに勇気をもらい、自分もがんばろうと思った日本人も多かったに違いない。そして、震災から復興しようとしている被災者たちにも「あきらめないで」というはっきりとしたメッセージを送り、大きな励ましとなったことであろう。
 
 地震、津波、原発事故、政府の拙劣な対応、混迷する政局という閉塞状態の日本にあって、なでしこ世界制覇のニュースこそ「今の日本に一番必要なもの」ではなかろうか。経済効果だけではなく、心理効果という面を忘れてはならない。PK戦の直前、監督や選手から笑顔が見られたようなさわやかさとあいまって、スポーツは国を明るくすることができるというこれ以上ない例である。
 
 なでしこの選手たちも、表彰式の後に「世界中の友だちへ。これまで支えてくれてありがとう」と英語で書いた横断幕を掲げたり、決勝戦の直前、佐々木監督が選手に震災の映像を見せて奮起を促すなど、今回のワールドカップと震災をリンクさせていたふしがある。被災者を支えたいという思いが実力以上の力を出したというほどスポーツは単純ではないことは承知しているが、震災の年に日本がサッカーの国際大会、それも頂点のワールドカップで初優勝を遂げたという事実には偶然以上のものを感じてしまう。
 
 スポーツ界は他にも、被災者支援のためにいろいろなことを行ってきた。プロ野球は東京ドームで予定されていたオールスターゲームをKスタ宮城で行う。ゴルフの石川遼は今季の賞金全額を義援金とすることを発表。テニスでは錦織圭と世界ランク1位のノバク・ジョコビッチが、チャリティサッカー大会やプロテニス選手のオークションを主催した。
 
 石原都知事は2020年の五輪に立候補することを正式に表明したが、これも「復興五輪」という側面があり、競技の一部を東北地方で開催するプランもある。その一方「スポーツ基本法」の成立に伴い、五輪招致の費用が国税から支出されることもあり「震災」を「五輪」に利用している、という批判もある。
 
 しかしながら、なでしこジャパンが被災地を初めとする日本社会に与えた勇気を見た時、今から9年後、復興に向けての最終段階にあるであろう東北地方にオリンピックが経済的、心理的にプラスの影響を与えるのは疑いようがない。筆者には石原都知事の姿勢を「復興利用だ」として批判することはできない。

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