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vol.534-1(2011年7月20発行)
松原 明 /東京中日スポーツ報道部
「なでしこの驚き」

 私はサッカーの取材を続けて約半世紀になるが、今回の女子サッカー・ワールド・カップで日本代表「なでしこ」が金メダルを獲得する快挙ほど、驚いたことはない。

 日本女子は、なでしこ・リーグで一部プロ契約している選手(それも男子のJリーガーにはとても及ばないささやかな金額)はいるが、大半は会社に勤務してその合間に練習参加するか、アルバイトで生活費をかせぎやっと練習している完全アマである。

 男子のW杯では、アマが出場できるのはプロのないオセアニア代表(ニュージーランド)だけで、あとは本大会に出ることさえも不可能。プロ、アマの差は歴然としている。

 しかし、女子の世界ではプロ・リーグがあり報酬を受けているのはアメリカだけ。女子サッカーが盛んな欧州でもプロは成り立たず、イングランドの女子プレミア・リーグも、ドイツのブンデスリーガでも、プロ・リーグではない。他の大陸連盟では、すべてアマでプレーしている。

 女子の試合では入場料収入が得られず、テレビ放映も視聴率が取れないため、中継もできないのでプロ・リーグは成り立たないからである。だから、純粋はアマでも世界で活躍できる。

 北朝鮮、韓国は「メダルを取るチャンスは男子より、はるかに高い」ことを意識し、競って国策として強化に乗り出しており、韓国はU17W杯で金メダル(日本は2位)を手にするまでに成長した。女子サッカーの先輩格、中国はすでに1999年W杯で準優勝するまでレベルを上げ、日本も追いついてきた。

 今回の日本はみんな小柄でも個人技、組織サッカーが磨かれた東アジアのサッカーにおいて「女子はサイズではない」ということを、見事に証明した。

 女王で君臨していたドイツ、アメリカが日本のワイドに展開するパスワークに翻弄され、あれほど後半動けなくなるとは全く予想外だった。日本女子の連動して忠実に動き、疲れも見せないタフにさは脱帽するしかない。

 なでしこ・佐々木監督は「だから、日本の女性は本当にサッカーに適応している、と思います。世界に通じる才能が十分ある」というほど小柄な体格をフルに生かしていた。

 完全庇護され生活も保障されている、アメリカ、ドイツ、イングランドをしのぐハングリー精神。多くの国際試合の経験を経て大柄な外国選手に負けないゲーム感覚も体で覚え「ピッチでは自分たちで考え、判断する能力も身に付けた」なでしこ。

 ドイツを破った決勝点は、DF・岩清水からのロング・パスが右サイドを走る、最年少の岩淵へ渡ると、中央から右へ流れた澤がパスを受け、その瞬間、右前へ走った丸山へ澤のスルー・パスがぴたり渡り、右の角度ギリギリからの会心のシュート。これほど素晴らしい連携プレーは男子でもできない。

 さらに、アメリカに延長で追いついた、澤の同点ゴールは左CKを蹴った宮間と打ち合わせたサイン・プレー。しかし、アメリカは澤にDFがぴったりマークし、その背中越しに右アウトサイド・キックで決めたゴールは、うなるほどのすごさだった。すべてのプレーは練習でつちかい、相互理解を深めて得たたまものである。

 1ヶ月半にも及ぶ、長期大会の緊張が解けて虚脱状態に陥ることのないことを祈る。

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