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vol.571-1(2013年 4月15日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―7

 地面に転がる腐ったゆず柚子の実は哀れだ。庭の柚子の木を見ていたら、この夏に88歳になる母がいった。
 「『桃栗3年・柿8年・柚子の馬鹿野郎18年』っていってな、せっかくここまで育てたのに放射能でダメだ。タケノコも食えなくなった・・・」

 実家から徒歩で3分ほどの南相馬市運動公園。現在は使用されているが、体育館は遺体安置所になるなど3・11から1年間は使用禁止。当時の放射線量は毎時0・8マイクロシーベルト前後だった。
 そのサッカー場には県立小高工業高校が移転。仮設校舎が建設され、昨年4月から授業が行われている。土地を貸した南相馬市は強く除染を勧めたというが、福島県は除染せずに建ててしまった。私は訪ねるたびに放射線量計で計測しているが、この3月の段階では0・4〜0・6。1年前よりも低いといっても、3・11前の10倍の数値であることを忘れてはならない。
 その上に外水道もない。いや、水道は設置されているのだが、市が止めてしまった。つまり、除染されないグラウンドで部活に励む生徒たちは、顔も手足も洗えないということだ。

 小高工業高の部活顧問の教師たちは、戸惑い顔で語った。複数の談話をまとめればこうなる。
―小高工業は県立のためでしょうね。水道を使用するのは県立の生徒だけだから市側は関係ないという感じです。県側は校内にある水道を使用すればいいといっています。私たちは、除染していないグラウンドなんか生徒には使わせたくない。そのため市内の小学校や中学校の除染した校庭を放課後だけでもいいから使用したいと、市の教育委員会にお願いしたんです。ところが、義務教育の小学校や中学校の施設は県立高校には使用させられない、ということでした。生徒の多くは南相馬市の市民なのに何を考えているのか、私たちにはまったく理解できません。また生徒たちの自転車置き場は野ざらしで、屋根を付けてくれたのは7月に入ってからです。それに移転した当時は、市のゴミ収集車もこない。その理由を聞いたら、市にゴミ収集の申請をしていなかったためということでした・・・。
 以上だが、市も県も情けないというか、この期に及んでもタテ割り行政に固執しているのだ。子どもたちを何と思っているのか―。

 この2年間、私は市の教育委員会にはたびたび行っているが、腹が立つことはいっぱいある。昨年3月初旬の定例市議会のときだ。取材したことがある議員が提案した。「今年の夏休みには子どもたちを県外に連れだし、長期合宿をさせたほうがいい・・・」と。

 ところが、教育委員会側は「2泊3日まではいいが、長期間は前例がないため困難である」と。その議員は、私にこういった。
 「前例がないっていってもね。連中は余計な仕事はしたくないだけ。議会後にいわれましたから。余計なことはいうなって・・・」

 昨年の1月23日。市民ランナーとしても知られる、南相馬市長は私の取材に応じた際にいった。
 「とにかく、原発事故によってスポーツはできない。我々としては、仮設校舎や仮設住宅を建てる場合は、スポーツ施設以外の場所の候補地を選定したんだが、県側は野球場やサッカー場などを使わせてくれとね。そのためたとえ暫定的でもやむを得ないかなと・・・。屋外で野球やサッカーができる状態じゃないし。まあ、課題はいっぱいある。除染をし、早く子どもたちを故郷に戻さないといけない。それをまずは考えなければならないが、除染した場所の土壌などを集める場も確保しなければならないという、大きな問題もある・・・」
 
 子どもたちは、原発禍に喘いでいる。
 あるお父さんはいった。原発から30キロ圏外の鹿島区の中学校の体育館で授業を受けていた息子は、登校拒否になった。その原因は体育館にあった。床下にバネが設置されているため、生徒たちが走るたびに微妙に揺れ、3・11を思いだしてしまうからだ。毎月11になると部屋の片隅にうずくまり、震えだす子どももいるという。
 また、ガキ大将だった小学生は避難先の体育館で声をあげ、走り回るたびに大人たちに怒られた。「うるせい。静かにしろ。支援物資をやらねえぞ!」。そのためだろう、ガキ大将から一転していい子ちゃんになってしまったのだが、お母さんは心配する。息子は去勢されたみたいにおとなしくなってしまった。この反動がいつ爆発するかと思うと怖いです。
 子どものうちは自由にさせておくのが一番ではないでしょうか、と。ある中学教師は、3・11後は反抗期を迎える生徒が少なくなったような気がする、といっていた。成績優秀な生徒が、まったく勉強をしなくなった。ライバルだった生徒たちの多くが避難し、やる気を失せてしまったからだ。お母さんに「私は結婚できないの?」と訴える女子中学生もいる。ある園児は、教室の窓から外を眺めて「先生、放射能が見えたよ!」といって叫ぶ。放射能という言葉を、子どもたちは日常的に口にしているのだ。
こんな話も耳にした。単なる面白半分の噂ならいいのだが、登校下校の際に空に向かって「放射能ちゃん、おはよう!」「マイクロシーベルト君、こんにちは!」などと叫ぶ児童もいると聞いた・・・。
 この現実を政治家や文科省は把握しているのか―。
2年が過ぎた今でも私は、原発禍にある土地に「子どもたちを住まわせてはダメだ!」と思っている。

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