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vol.574-1(2013年5月15日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

野球にタックルは必要ない

 プロ野球でのラフプレーが問題になっている。阪神・マートンが12日の試合でヤクルトの捕手・田中雅彦に見舞った体当たりの一件だ。ヤクルト側は「プロだから仕方がないではなく、検証が必要」とセ・リーグの理事会に提案したそうだが、もはや検証や議論の余地はなく、危険なプレーとして即刻禁止にするべきではないか。

 アマチュア野球では今年からこうした体当たりが禁止されることになった。2月に日本アマチュア野球規則委員会が発表した「内規」では、「危険防止(ラフプレー禁止)ルール」として、タッチプレーで野手が明らかにボールを持っている場合、走者はたとえ走路上であっても、野手を避けるか、減速して接触を避けなければならない、と定められた。野手の落球を誘おうとして走者が接触したと審判が判断すれば、野手が落球しても、走者にはアウトが宣告される。

 このルール導入には伏線がある。昨夏に韓国で開かれた18U(18歳以下)世界選手権でのプレーだ。2次ラウンドの日本対米国戦で、日本の森友哉捕手(大阪桐蔭)が米国選手の体当たりを二度受け、一度は脳しんとうを起こした。そのような事態を重くみた日本のアマ球界はこのようなプレーはあってはならないと、禁止ルールを制定した。

 しかし、今春の選抜高校野球大会では、皮肉にもルール導入のきっかけになった大阪桐蔭の走者が県岐阜商の捕手に体当たりして落球を誘い、守備妨害でアウトを宣告される場面があった。試合後、日本高校野球連盟は大阪桐蔭の西谷浩一監督を厳重注意したほどで、まだ危険に対する意識が現場に浸透しているとは言い難い。

 マートンの突進で、田中は左鎖骨を骨折した。センターフライで三塁走者のマートンがタッチアップ。強烈な体当たりを受けても田中はボールを落とさず、マートンはアウトとなったが、鍛え上げられた体格の外国人選手が全力疾走でぶつかってくる衝撃は相当なものだっただろう。送球を待ち構えている捕手に、体当たりを防ぐ十分な準備ができているわけはなく、ぶつかり方次第では選手生命が奪われかねない危険なプレーだった。

 田中が走路を塞いでいたからマートンのタックルは仕方がない、という意見もある。また、アメリカでは本塁上でのタックルが勇敢なプレーと評されることもあると聞く。だが、そうした考えに同調する必要は全くない。プロのプレーは子供たちが真似をする。野球は衝突の強さを競うスポーツではなく、こんな走塁が称賛されては困る。

 選手の安全を守るためのルール改正にプロもアマもない。日本プロ野球組織(NPB)はこんな時こそ迅速に動き、野球界の手本となる姿勢を示してほしいものだ。

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