スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.591-1(2013年12月27日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

国威発揚の足音が聞こえる

 政府の2014年度予算案が示され、スポーツ関係予算は過去最多の255億円にのぼる見通しになったという。これに対し、日本オリンピック委員会(JOC)の選手強化本部長を務める橋本聖子・参院議員が「7年後に(東京五輪で)世界3位の金メダル数を獲得することを真剣に考えるのであれば、予算がなさ過ぎる」と発言したことがニュースで伝えられた。

 スポーツ界は昔からカネがない、カネがないと言い続けている。255億円という金額が多いか少ないかに議論の余地があるが、最近は国の補助金やサッカーくじ(toto)収益からの助成金が出るのが当たり前と考え、そればかりに頼るようになってきた。

 だが、全日本柔道連盟をはじめとする競技団体で今年発覚した補助金や助成金の不正受給・流用問題は、スポーツ界の甘さを露呈した。強化に必要だと主張して獲得した公的資金の一部を飲み食いに充てていたのは、あまりにずさんな有様だった。

 このように安易にカネが手に入るようになれば、その配分を握る政治家や官僚、またはサッカーくじを運営する日本スポーツ振興センターに対してモノが言えなくなって当然だ。東京五輪招致がいい例だが、政治家が前面に出ることが随分と増えた。

 暴力、セクハラ、パワハラとスポーツ界の不祥事が相次いだ1年だったが、それをさばくのも、文部科学省が主導する有識者会議や第三者機関であり、競技団体の自浄能力が問われる場はめっきり減った。もはやスポーツ界の人間は信用できないとばかりに、元捜査機関の人や弁護士たちがスポーツ界のトラブル処理にあたっている。こうして、スポーツ界は自立や自律の意志をそがれ、浮ついた人気取りばかりに利用されている。

 この原稿を書いているさなか、安倍晋三首相が靖国神社に参拝したというニュースが飛び込んできた。6年半後に迫った東京五輪に向けて、日本は近隣諸国だけでなく、世界各国との友好関係を進めなければならないのに、政府は全く反対の方向を向いている。中国や韓国ばかりか、欧米諸国も日本の政治姿勢に疑問符を突きつけている。このような状況が続けば、東京五輪はまさしく国威発揚の道具にされるに違いない。

 こんなキナ臭い時代に、スポーツ界は自らの意志を表現し、スポーツのあるべき姿を追求していけるだろうか。特定秘密保護法案の参議院・委員会採決では、野党の反発で会議が混乱する中、元プロ野球選手の自民党議員が採決の動議を発する役割をさせられていた。スポーツが政治に利用される象徴的場面のように見えた。

 「国家戦略」とスポーツ基本法に位置づけられた政策の一環でメダル争いに駆り立てられ、政治に依存しなければ、選手強化も五輪運営も実現できない状況に置かれている。東京五輪開催決定の祝賀ムードはやはりひとときのことで、嫌な空気が日本のスポーツ界を覆い始めている。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件