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vol.619-1(2014年9月10日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―45

 浪江でコンビニ再開 食料品や日用品販売―
 8月21日、JR福島駅ホームで購入した地元紙によると、コンビニ大手A社は6日後の27日からクローズしていた浪江役場前店をオープン。標準的な店舗と同様の品ぞろえで酒類もあり、営業時間は日曜を除く午前7時〜午後3時まで。出店は町からの要請に基づくものだという。
 原発事故以来、全域が避難区域となっている町村でのコンビニ再開は初めてだが、原発禍の自治体に自宅を持つ避難民にとっては不思議だという。自宅といえども滞在時間が午後4時までと制限される、居住制限区域(放射線量の年間積算線量が20_シーベルトを超えるおそれがある区域)や避難指示解除準備区域(年間積算線量が20_シーベルト以下となることが確実と確認された区域)でのコンビニ再開だからだ。はたして採算が取れるのか?
 「役場の強い要請で再開したといってるが、政府の思うつぼじゃないのかな。政府は10月から川内村東部の避難指示解除準備区域を解除するだけでなく、居住制限区域は避難指示解除準備区域にする方針なんだから。まあ、政府がどんな区域に指定しょうと、原発から20キロ圏内の土地には住めない。放射能は消えることはないし、今も放射能が拡散しているというし。要するに復興作業員当てにしたコンビニ再開だろうよ・・・」
 南相馬市の仮設住宅で避難生活を余儀なくされる、浪江町住民は渋い顔でそう説明した。

 被災地のコンビニ事情の話を続けたい。南相馬の私の実家の隣にもコンビニがあり、帰郷するたびにお世話になっている。夕方になると部活を終えた中高生、加えて復興作業員のお客も多い。店先の駐車場を眺めれば、全国各地の車のナンバーが確認できる。
 福島県の太平洋に面した浜通り地方。北から南に新地町・相馬市・南相馬市・浪江町・双葉町・大熊町・楢葉町・広野町があり、その地を縦断する国道6号線沿いには、多くのコンビニがある。
 しかし、当然のごとく3・11後は閉鎖し、とくに原発から20キロ圏内のコンビニは空き巣被害が相次いだ。窓やドアがこじ開けられ、商品が盗まれるだけでなく、ATMまでも破壊された。私が取材したコンビニもまたATMが滅茶苦茶に壊され、燕の巣がつくられて糞だらけ。店内には食料品が散らばり、異臭を放っていた。イノシシなどの獣までもが侵入したのだ。
 災害派遣で巡回していた若い自衛隊員は、私と肩を並べて店内を覗きつつ怒っていた。
 「日本人として、火事場泥棒的な犯罪は絶対に許せない。つかまえたら容赦はしないぞ!」
 そういえば思いだした。前号でも記述した、この9月26日で55年目を迎える、5000余人の命を奪った伊勢湾台風のときも同じだった。災害につけ込んで他人の物や漂流物を盗む者が横行。風水害見舞金名簿を偽装し、ボランティアを装い、募金を集めるとんでもない輩もいたが、その罪は重かった。司法当局は戦時下に施行していた“戦時刑事特別法”を復活させたごとく、厳罰に処した。
 たとえば、倉庫から300円相当の古本を盗んだ者は懲役2年。テレビ1台を窃取した者に対しては懲役3年の問答無用の判決を、裁判所は下した。執行猶予も起訴猶予もつけることなく、第一回公判で審理を終結。即日判決を下していた。ちなみに今回の広島市の土砂災害の際も空き巣被害が続いたという。

 コンビニの話は以上で終わりにし、話題を替えたい。
 最近どうしても解せないことがある。それは原発禍にある双葉郡の教育を支援するという「ふたばの教育復興応援団」についてだ。
 今年の7月半ばだった。来春開校する福島県立中高一貫校「ふたば未来学園高」を支援したいと、小泉進次郎復興政務官がふたばの教育復興応援団を発足。その応援団のメンバーには建築家の安藤忠雄、宇宙飛行士の山崎直子、元オリンピック代表の為末大と潮田玲子、作家の乙武洋匡、劇作家の平田オリザたち(以上、敬称略)の著名人が名を連ねた。
 しかし、私は思わず「何で?」と首を傾げてしまった。まず、福島県が中高一貫校を開校するのは理解できるが、何故に広野町に校舎をつくるのかと・・・。
 たしかに3・11前の広野町は、なでしこリーグの東京電力女子サッカー部の“マリーゼ”(原発事故後に休部)の本拠地であり、楢葉町とともにJヴィレッジを擁する町だった。が、現在の広野町は原発禍にある自治体には変わりなく、多くの住民は放射能を恐れ、未だ町に戻らない。先月8月末の人口は5138人(1950世帯)だが、町内居住者は1640人(824世帯)である。つまり、人口の68パーセントに当たる3498人は避難生活を送っているのだ。そのような地に何故に開校するのか。私には理解できない。
 さらに応援団に賛同し、メンバーに名を連ねた著名人の心境もわからないというか「???」だらけだ。
 「前例のない環境で頑張る子どもたちを応援したい。理想の学校を少しでも実現したい・・・」
 そう語る小泉復興政務官の意を受け、応援団のメンバーは授業のカリキュラム作成に協力。教壇に立ち、部活の指導をしたりして年間最大100時間ほど支援するという。
 正直、以上のことが実現すれば素晴らしいことだろう。しかし、あくまでも開校する地の広野町は原発禍にある。先に述べたように住民の68パーセントは避難中だ。そこを福島県と政府、応援団の著名人は考えるべきだ。私は真っ先に挙手して質問したい。
 あなたは原発禍の学校に子どもや孫を通わせますか?
 あなたは実際に原発禍の土地に出向き、現状を視察しましたか?
 あなたは原発事故で避難する住民の生の声を聞きましたか?
 あなたは原発禍の土地に住めますか?
 あなたは政府が推進する原発の再稼働をどう思いますか?
 あなたは原発事故は2度と起こらないと断言できますか?
 あなたは放射能が怖くないのですか?
 あなたはヒロシマとナガサキの被爆者の声を聞きましたか?
 あなたは海外に原発技術を輸出する政府を支持できますか?
 あなたは・・・

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