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vol.602-2(2014年4月18日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

ロンドンの「遺産計画」に学ぶ

 駐日英国大使館で17日に開かれた「ロンドン五輪から東京五輪へ」というセミナーには、我々のような報道陣の他、東京五輪・パラリンピック組織委員会や日本オリンピック委員会などの関係者が招かれた。英国政府の文化・メディア・スポーツ省の前事務次官、ジョナサン・スティーブンス氏が講演し、中でもロンドン大会が取り組んだ「レガシー(遺産)計画」がひときわ注目を集めた。

 ロンドンの組織委員会は、大会前から国際オリンピック委員会(IOC)と激しい交渉を繰り広げていたという。その一つが、「ノンコマーシャル(非商業的)」のロゴマーク使用だった。

 「IOCは最初、そんなものは絶対に認めないという態度だった」とスティーブンス氏は振り返った。巨額の協賛金を支払うスポンサーの権利を守るために、五輪関連のロゴマーク使用は厳格に制限されている。そんなマークを英国各地において無料で使い、しかも商売はしないというのだから、IOCは驚いたのかもしれない。

 ロゴには、いわゆる五輪マークは使わず、「inspired by London2012」という文字をあしらった。「2012年ロンドン大会に鼓舞されて」という意味だが、五輪やパラリンピックの財産が英国全土に残るよう、地方都市でのイベントなどでこれを使ってもらうことを計画。IOCもその主旨を理解し、最終的には認めざるを得なかった。

 「レガシー計画には予算がなかった。そんな中で営利とは関係ないロゴを地域社会で使うことができたのは成功だった」とスティーブンス氏。レガシー計画は@スポーツ人口を増やすA経済成長を達成するB地域社会の関係を強めるCロンドン東部の再生に取り組む―の4項目に重点が置かれた。中でもスポーツ人口の増加は難しい課題だ。

 スティーブンス氏によれば、五輪開催が決定した2005年段階と比べ、週に一度はスポーツを行うという人口が150万人増えたというデータがあるという。だが、今後もスポーツに取り組む人々を増やしていなかければ、遺産とは言い難い。それは施設の後利用計画を検討するよりも簡単ではないテーマだ。組織委はロンドン市内だけでなく、地方でのスポーツ熱の高まりを重視し、大会前から計画を練っていた。それが将来的に地域社会の結び付きを強める。非商業的なロゴ利用はその一環だった。

 東京の関係者からは次々とロンドンの計画に関して質問の手が挙がった。スポーツだけでなく、教育や医療、福祉などでもどうやって財産を残していくか。東京にはまだアイデアが乏しい。スティーブンス氏はキャメロン首相の言葉を引き合いに出し、「(五輪・パラリンピックは)数週間の単なるスポーツイベントではない。10年後、20年後、何十年後になっても残るものでなければならない」と強調した。その言葉に「お祭りだけで終わらせるな」というメッセージが込められていた。

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